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茶園敏美著『パンパンとは誰なのか』書評会コメントー「キャッチ」と女装男娼ー [性社会史研究(遊廓・赤線・街娼)]

12月23日(火・祝)

12月7日に京都市「堺町画廊」で行われた、京都セックスワークセミナー主催、茶園敏美著『パンパンとは誰なのか―キャッチという占領期の性暴力とGIとの親密性―』の書評会での報告です。

後半部分の「3女装男娼と『キャッチ』」では、基本的に法的規制にかからないはずの男性の売春行為(男娼)がなぜ「キャッチ(狩込み)」にかかって連行されてしまうのか?という従来の疑問を解決することができました。
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京都セックスワークセミナー主催 京都市「堺町画廊」2014年12月7日
茶園敏美著『パンパンとは誰なのか ―キャッチという占領期の性暴力とGIとの親密性―』書評会

  コメンテーター:三橋順子(性社会・文化史:都留文科大学非常勤講師)

1 「パンパン」との出会い
・ 井上章一+関西性欲研究会『性の用語集』(講談社現代新書、2004年12月)で「パンパン」の項目を担当。
  → 担当予定の竹村民朗先生(『廃娼運動』中公新書の著者、元大阪産業大学教授)が「『赤線』と『女衒』だけで勘弁してくれ」と辞退したため、「じゃあ、三橋さんやってください」と、井上さんになぜか指名される。
  → で、にわか勉強。
その勉強の間に出会ったいちばん印象的だった写真(↓)。
GHQ本部前のパンパン(194609) (2).jpg 
GHQ本部の前に立つパンパン(1946年9月頃)  
手前の女性の足元に注目 → 下駄ばき
GHQ本部前のパンパン(194609) (3).jpg
(『サン写真新聞・戦後ニッポン①昭和21年』毎日新聞社、1989年10月)

・ 研究対象の1つが「女装男娼」なので、調査をしていくと(女性の)街娼の資料も集まってくる。
  実態的に、両者は似たような所に立って、微妙な相互関係のもとに営業していた。
(参照)三橋順子「女装男娼のテクニックとセクシュアリティ」
       (井上章一編著『性欲の文化史 1』講談社 2008年10月)

2 『パンパンとは誰なのか』の意義
(1) 占領期(1945年8月~1952年4月)への着目 ← 明らかに研究が手薄
(2) 占領期の「地方」の状況の注目 ← どうしても東京中心になりがち
【資料1】1949年(昭和24年)頃、街娼(闇の女≒パンパン)全国推定数(厚生省調べ)
(多い都道府県)
1 東京都  約7000人
1 兵庫県  約7000人  → 全国で38860人の内の18%が集中
3 大阪府  約5000人
3 神奈川県 約5000人
5 広島県  約2700人
6 北海道  約2000人
7 愛知県  約1500人
7 山口県  約1050人
9 京都府  約1000人
9 岡山県  約1000人
9 福岡県  約1000人 
(出典)「これは便利だ パンパン百科辞典」(『探訪読物』3巻5号 1949年5月)

(3)占領期国内のセックスワーカーへの注目 ←「従軍慰安婦」研究に比べて等閑視
   → 平井和子『日本占領とジェンダー―米軍・売買春と日本女性たち―』(有志社 2014年8月)との同時性の意味
(4) 街娼規制と性病予防との関連への注目
   ← 従来は、風俗取締りとの関係が強調されがちで、性病予防対策としての認識は希薄。
   → (例外)ドウス昌代『マッカーサーの二つの帽子―特殊慰安施設RAAをめぐる占領史の側面―』(講談社文庫、1985年)
(5) 「キャッチ」の「性暴力」性という新たな注目
   ← 従来は、性病予防対策という観点が優先され、その暴力性が見過されてきた
   → 誤認「キャッチ」は女性に対する重大な人権障害 ←誤認が生じる構造
   → ただし、中には「無料検査・休養」目的に、あえて捕まるケースもあった
(6) パンパンとGIの「親密性」への注目
   → 占領軍兵士(男性)と敗戦国女性、「自国民の女を差し出す」敗戦国政府(男性)と「差し出される」女たちという二重の「性暴力」の構造の中にも、人間同士、男と女の親密な関係は成立する
   → 「性暴力」構造と「親密性」を対抗的に捉えるのは疑問
   → パンパンとGIの「親密性」を批判したり、無視したりするのは、当事者女性たちへの抑圧

3 女装男娼と「キャッチ」
・(前提として)売春関係の法規は、売春の行為主体を女性に限定している
 戦前の「密売淫」禁止も、戦後の「売春防止法」も同様。
 したがって、基本的に、男性の売春行為(男娼)は法的規制にかからない
   → 自治体の「売春類似行為」(肛門性交を含む)禁止条例で対応している地域もある
 「男娼問題」は戦前戦後を通じて(現在も?)警察の悩みの種だった。

【資料2】「男娼に罪する規定はなし?」(『警察新報』2号 1948年11月 「受験余暇」)
 宵ヤミに堂々と異様の風體でコビを売る駒さんこと岩田愛次郎(33)なる男娼を上野の山で検挙したものの、さてこれを罪する法的な根拠がないとあって“男娼問題”の懸案解決にヤッキになっている。
本人の自白だけでは罪にならず、一時お預の“売春禁止法”も男娼には無関係、さりとて異様な風體で取締るにも警察犯処罰令はすでになし、住所不定なら軽犯罪法だがこれも該当しない。
 結局、“サギ罪”だろうということに落ち着いたが、これも労力提供の点やお客の方で言いよった場合も考慮にいれねばならず目下心当りの“証人”の名乗り出るを待っているとか。
(註)「売春禁止法」----1948年6月に法務省が第2国会に提出した「売春等処罰法案」(審議未了・廃案)
   「警察犯処罰令」----1948年5月1日廃止  「軽犯罪法」----1948年5月1日公布

【資料3)関口五郎「狩り込み探訪記―男娼も居る上野の夜―」(『桃色ライフ』1号 1949年4月)
   上野警察署長と記者との会話
「取締りの根拠になっているのはどんな法律なんですか」
と尋ねると、署長は、
「それがね、困るんですよ、はっきりした法律がありませんのでねえ、今度何か東京都条例が立案されているようですが、現在では只花柳病容疑とゆう衛生行政上の取扱いでやっている訳です」
と、本当に困ったような顔をした。
「すると売淫行為は罪にならないって訳ですか」
私は無遠慮に追求した。
「売淫といっても、その認定が困難でしてねえ……そりや、法文がなくたって、とにかく社会の公序良俗に反することなんですから……」
とゆう返事だった。
(註)「東京都条例」----1949年5月31日施行の「売春等取締条例」(都条例58号)
   「花柳病容疑」----1948年7月15日公布の「性病予防法」
1948年5月1日に「警察犯処罰令」が廃止されて以後、1949年5月31日に「売春等取締条例」(都条例58号)が施行されるまでの約1年間、東京都では街娼の売淫行為を取り締まる法的根拠は存在しなかった(管理売春は1947年1月15日発令の「勅令9号」で違法)。
この時期の「狩り込み」=「キャッチ」が、法律的に「売淫行為」(売春)の摘発という風俗取締りではなく、「花柳病(性病)」対策という公衆衛生行政の一環として行われていたことがわかる<
そうなると、男娼も性病感染の疑いがあるわけで、「狩り込み」=「キャッチ」の対象になる
実際、【資料3】では、引用箇所の後、上野の山に視察に出た所長と記者が男娼と出会い、部下に連行させるシーンがある。

【資料4】角達也『男娼の森』(日比谷出版、1949年4月)
(103~104頁)
この日はお照は夕方から森で、もう二人も稼いだ。息抜きに階段まで出てくると、不意に狩込みだという。お照は狩込みに対しては、自分だけの秘法を持っていた。それは清水(きよみず)堂の裏の手擦りから伝わって、下枝のない大樹に登り、その狩込みの嵐が過ぎるまで待っている手で、誰にも教えずご連さんからも不思議がられていた。
お照は、その時階段まで出てしまっていて、あまり咄嗟のことなので舗道の脇を馳けぬけて、とまっていた輪タクに「頼むわよ」と飛び乗った。しばらくすると、ガガッと輪タクはなにかに衝突したらしく、はげしいショックを感じた。誰かが追う気配がして、猛烈とペダルを踏みながら後を振向いた運転手が交通信号灯に衝突させてしまったのだ。
それでも、運転手はこわれた車体の前半を抱いて押しながら、駅前のマーケットに入って行った。
(註)「階段」「清水堂」----上野の「山下」(旧:黒門口)から階段を上ると、右側に「清水観音堂」がある。

(181~182頁)
新宿界隈は上野以上に春婦が蝟集しているが、男娼はマリィちゃんと云う街の道化役で暮らしているのが一人いるだけだ。だから最初から男娼ではないだろうか、などと疑ってみるものもなかったから、よく客が掛かった。殊にお照が囁きかける野外での営みと云う事に好奇心をそそられ、金額も、気まずさを隠して旅館に行く三分の一の安さなので、稼ぎの切れ目はなかった。ムーラン附近の建物の陰の暗闇と、客を取る駅前の間をまるで駆け足で往復する程であった。ところが遂に一週間目に狩込みにかかって、他のパンパンと一緒に四谷署の婦人保護室に入れられた。
(註)「ムーラン」----新宿駅東口にあった劇場「ムーラン・ルージュ」

・ 娼婦と共に男娼もいっしょに「狩込み」で連行された
実態として、「お照」のように現場では男娼かどうか分別不能なケースもしばしばあった
警察署での取り調べで男娼であることが判明した後は、娼婦たちとは分離され、別の施設に収容された。上野界隈の場合、娼婦は「吉原病院」(台東区)へ、男娼は釈放されるか、「推定精神異常者」(当時、同性愛は精神疾患)として「桜ヶ丘保養院」(現:東京都多摩市聖蹟桜ヶ丘の「桜ヶ丘記念病院」)などに収容された。

上野の女装男娼1(上野駅) (2).jpg 上野の女装男娼2(上野警察署) (2).jpg      
(左)上野駅で (右)上野警察署で      
上野の女装男娼4(桜ヶ丘保養院) (2).jpg 上野の女装男娼3(桜ヶ丘保養院) (2).jpg
(左)桜ヶ丘保養院の近くで (右)桜ヶ丘保養院本館で
小峰茂之・南孝夫『同性愛と同性心中の研究』(小峰研究所 1985年)


12月22日(月)年末の鍼治療 [日常(通院)]

12月22日(月)   晴れ  東京  11.4度  湿度30%(15時)

10時半、起床。
14時20分、家を出る。
15時10分、表参道駅へ。
P1180821.JPG
↑ ピンク色の車がいたので、自撮りするふりをして撮影。
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↑ 師走の表参道は人通りが多い。

15時30分、「ポルクス整骨院」で鍼治療。
いつものように、鍼、灸、オイルマッサージ、ストレッチの組み合わせ。
また右腕(肘の前後)に痛みが出てきたので、肩関節を矯正。
右肩と右二の腕に置き鍼。

右腕の痛みは軽くなったが、いつもは治療後、発汗して循環がアップするのだが、今日はなぜかすぐにダウンしてしまう。
帰路の電車、だるくてずっと居眠り。
でも、明日、すっきりすれば、それでいい。

今日は、冬至(しかも19年ぶりの朔旦冬至)なので、柚子湯に入る。
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↑ 柚子がプカプカ浮いて、なかなかちょうど良いポジションに来ない。
就寝、3時。


12月22日(月)今日のご飯 [日常(料理・食べ物)]

12月22日(月)
今日のご飯。

【朝食】
新丸子駅前「ブーランジュリー・メチエ」のグレープフルーツデニッシュとコーヒー。
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【昼食】
表参道駅のフードコート(地下1階)「MARCHE DE METRO」の「Bistro LYON」で、2色ソースオムレツ・ライス(980円)。
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【間食】
自宅最寄り駅前の「ドトール」でバナナ・マフィンとコーヒー。
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【夕食】 
常夜鍋(豚肉のしゃぶしゃぶ)。ほうれん草は寒縮み。
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川崎市男女平等推進学習「ありのままの自分~ジェンダーとファッション~ 女装/男装ってなんだ?」ご案内 [お仕事(講義・講演)]

12月22日(月)

川崎市男女平等推進学習「ありのままの自分~ジェンダーとファッション~ 女装/男装ってなんだ?」(全5回)の第1回(2015年1月15日)でお話しすることになりました。
テーマは「女装×日本人~目からうろこの日本の女装史~」。
マスメディアが大好きな「性同一性障害」や最近流行りの「LGBT」など胡散臭い言葉はまったく出てこない、本格的な異性装の日本文化史論です。

私が前座を務めた後は、名著『異装のセクシュアリティ』(新宿書房)の著者、石井達郎先生(第2回)や、第3回女性史学賞に輝く『少女マンガジェンダー表象論―“男装の少女”の造形とアイデンティティ』(彩流社)の著者押山美知子さん(第4回)も登場。
そして、あの「かなまら祭」の「金山神社(若宮八幡宮摂社)」の見学会(第3回)も組まれています。

自治体が、異性装をテーマにこれだけ充実した内容の連続講座を組むのはおそらく初めてのことで、とても画期的なことです。

なお、第1回に限り、講師関係者席を若干確保しました。
聴講ご希望の方は、三橋までご連絡ください。

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川崎市男女平等推進学習
「ありのままの自分~ジェンダーとファッション~ 女装/男装ってなんだ?」のご案内

川崎市教育文化会館では毎年男女平等推進学習に関する講座を開設しています。
今年度は「ファッション」をテーマに、ジェンダーについて学ぶ内容の連続講座です。
今回は性社会・文化史研究者で「女装と日本人」の著者である三橋順子氏を初回にお迎えし、全5回の連続講座を実施いたします。

【概要】
普段何気なく着る衣服。服装という視点からジェンダーを考えると実はさまざまな課題も見えてくる。
「女装っていつから始まったの?」「女装/男装はなぜするの?」「少女マンガと異性装のつながりって?」
そんな疑問に答えつつ川崎の性にまつわる神社への訪問をし、最後は他人事ではなく自分事としてジェンダーの課題を考える怒涛の連続講座ついに開講!
ファッションとジェンダーに関する講座はあなたにとって新しい刺激を与えると同時に、ジェンダーに関する課題を考える良い機会となるはずです。

【内容紹介】
第1回 2015年1月15日(木)19~21時
「女装×日本人~目からうろこの日本の女装史~」
講師:社会・文化史研究者 三橋 順子氏

第2回 2015年1月22日(木)19~21時
「異性装×パフォーマンス~パフォーマンスからジェンダーの表象を探る~」
講師:慶應義塾大学名誉教授 石井 達朗氏

第3回 2015年2月15日(日)10~12時
「性×神社~川崎と性との出会い~」
講師:若宮八幡宮・金山神社 中村 博行氏

第4回 2015年2月19日(木)19~21時
「異性装×少女マンガ~少女マンガから見るジェンダー表象~」
講師:専修大学文学部 助教 押山 美知子氏

第5回 2015年2月26日(木)19~21時
「ジェンダー×リアル~自分事として課題をとらえる~」
講師:子育てアドバイザー 三星 とく子氏

【会場】
川崎市教育文化会館4階 第1学習室
住所:〒210-0011 川崎市川崎区富士見2-1-3
2月15日(日)は、若宮八幡宮・金山神社を訪問

【受講料】
無料

【対象】
主に川崎市在住・在勤・在学の方20名程度

【お申込み】
2014年12月18日(木)10時からお申込み開始(先着順)
電話・FAX等で受付しています。
川崎市 川崎区役所まちづくり推進部生涯学習支援課
電話:044-233-6361   ファクス:044-244-2347
インターネットでお申し込みの方はこちら(↓)からどうぞ(12月18日10時よりアクセス可能です)
https://sc.city.kawasaki.jp/multiform/multiform.php?form_id=801&_ga=1.17802682.262672425.1417269787
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