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江戸東京博物館「大浮世絵展」 [お勉強(博物館・美術館)]

先日(1月7日)、両国の「江戸東京博物館」で開催中の「大浮世絵展」を見に行ってきた。
当日の日記は「野猫さんと家猫さんの初顔合わせ」の話で終始してしまったので、展覧会の感想を別に記すことにする。

今回の「大浮世絵展」は「国際浮世絵学会」の創立50周年記念ということで、「浮世絵の名品を」「一堂に集め」たもので、作品数440点で「浮世絵の全史」をたどり、「浮世絵の教科書」となる展覧会とのこと。
展示は、以下の6部に分かれている。
1 浮世絵前夜(江戸時代初期 17世紀)
  寛文期(1661~73年)を中心とする肉筆風俗画・美人画
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「彦根屏風」(寛永年間 1624~44年)
近世初期風俗画の代表作。

2 浮世絵のあけぼの(元禄~宝暦期 17世紀後半~18世紀前半)
  最新流行の風俗を描く「浮世絵」の登場。菱川師宣、鳥居清倍、奥村政信の作品など
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菱川師宣「北楼及び演劇図巻(北楼の部分)」(寛文12~元禄2年 1672~82)
最初期の新吉原(北楼)を描いた貴重な風俗画。
菱川師宣「北楼及び演劇図鑑」1-2.jpg
寄り添って見物する男と若衆。この2人、「出来てる」(男色関係)と思う。
3 錦絵の誕生(明和~安永期 18世紀後半)
 「錦絵」と呼ばれる木版多色摺技法が誕生した時期。
 「錦絵」の創始者鈴木春信、役者絵を得意にした一筆斎文調、安永期に活躍した磯田湖龍斎、肉筆画に優れた勝川春章などの作品。
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鈴木春信「百人一首 蝉丸」(明和4~5年 1767~68)
春信が描く美男と美女は顔立ちがよく似ている。
一筆斎文調「瀬川菊之丞(二世)の柳屋お藤」 (2).jpg
一筆斎文調「瀬川菊之丞(二世)の柳屋お藤(明和6年 1769)」
やはり春信風の顔立ち。時代の好みなのだろうか。
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磯田湖龍斎「扇屋花扇」(安永6~7年 1777~78)
扇面の曲線に沿って反るように描かれた遊女の肢体が美しくエロチックですらある。
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勝川春好「(三世)瀬川菊之丞(天明8年 1788)」
絶大な人気を誇った名女形のアップ。美人大首絵の初期のもの。
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勝川春章「美人鑑賞図(寛政前期 1789~1801)
顔も身体も縦に伸ばしたように細すぎる。

4 浮世絵の黄金期(天明~寛政文化期 18世紀末~19世紀初) 
傑出した絵師が次々に現れた錦絵の全盛期。
傑出した美人画家鳥居清長、抜群の技量の人気絵師喜多川歌麿、突然現れたちまち消えた役者絵の東洲斎写楽、歌川派を率いた歌川豊国など。
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鳥居清長「雛形若菜の初模様」(天明4年 1784)
花魁と禿が同じ衣装で、振袖新造は違うデザインであることがわかる。
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喜多川歌麿「四季遊花之色香」(天明前期 1781~89)
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若旦那の縦絽の羽織の裾をから透ける女性の顔の描写など、歌麿の卓越した技量がわかる。
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喜多川歌麿「鮑取り」(寛政前期 1789~1801)
鮑を取る海女と、それを見物する旅の女たち。海女の描写がとても写実的。
喜多川歌麿「鮑取り」 (3).jpg喜多川歌麿「鮑取り」 (4).jpg
場所は江の島あたりと思われるが、歌麿、実際に行っているのではないだろうか。
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蟹を怖がる子供の様子がおもしろい。
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喜多川歌麿「難波屋おきた」(寛政中期 1789~1801)
「寛政三美人」と称された人気の町娘の姿を前と後から1枚の紙の両面に描く。
表裏の肢体は狂いなく重なる。
歌麿の創意工夫と、それを可能にする技術が光る。
この絵から、おきたちゃんの立体フィギュアが作れるのではないだろうか?
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歌川豊国「布袋屋店先」
着飾った裕福な町娘たちと布袋さまの対比がおもしろい。
歌川豊国「布袋屋店先」 (3).jpg
5 さらなる展開(文政・天保~安政期 19世紀前半)
浮世絵はそれまでの美人画、役者絵に加えて風景画や花鳥画にも展開する。
風景画では「富岳三十六景」の葛飾北斎、「東海道五十三次」の歌川広重が活躍する。
それらのお馴染みの作品群は置いておいて、このコーナーの白眉は間違いなく、↓ の作品。
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葛飾応為「夜桜図」(19世紀半ば)
春の夜、一首を短冊に書き記そうと思案する女。灯籠の光に浮かぶ夜桜が春の夜の妖しさをいや増す。空には星がまたたく。
明暗を駆使した光への繊細な感覚と桜の花や星など細部にまでこだわった表現、まことに見事。
応為は葛飾北斎の娘「お栄」の画号。
北斎が娘を「おーい」と呼んだことから「応為(おうい)」と名乗ったらしい。
応為の作品は数少ない、比較的よく知られているのは、今回は出ていなかったが ↓ の「月下砧打美人図」と「吉原夜景図」くらい。
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葛飾応為「月下砧打美人図」
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葛飾応為「吉原夜景図」
西洋絵画技法の影響が明らかに感じられる明暗法と細密な描写力は、天才北斎の抜群の技量をしっかり受け継いでいる。
前近代に稀有な女性画家として、もっと高く評価されていいと思う。

6 新たなるステージへ(幕末~近代 19世紀後半~20世紀)
幕末から明治維新、そして文明開化期へと、激動する時代、流入する西欧技術の中で模する浮世絵師たち。
やがて伝統的な「浮世絵」版画の技術は、近代絵画の中に融け込んでいく。
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(三世)歌川広重「東京築地ホテル館表掛之図」 (明治2年 1869)
画家も技法も江戸時代のまま、文明開化の建物をちゃんと描いているのがおもしろい。
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小林清親「日本橋夜」(明治14年 1881)
西欧絵画技法の影響がはっきり認められる、いわゆる「光線画」。
電燈以前の夜の闇の深さが巧みに描写されている。
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川瀬巴水「日本橋(夜明)」 (昭和15年 1940)
ここまで来ると、もう「浮世絵」という感じはなくなる。
でも技術は伝わっている。

2.7cmもある重く分厚い図録(2700円)が示す通り、質量ともに「大浮世絵展」と称するにふさわしい展覧会だと思う。
とくに、全盛期の鳥居清長や喜多川歌麿の作品群は充実していた(それに比して鈴木春信はやや少ない)。
ただ、「浮世絵の教科書」と称するだけあって、作品の選び方は、良く言えばオーソドックス、悪く言えばいささか陳腐。
作品に付せられた内容解説もかなり旧態依然で、新しい研究が参照されていないように思う。

なにより問題なのは、展示から「春画」がまったく欠落していること。
浮世絵は、美人画、役者絵、風景画、そして春画の4大テーマで成り立っていたわけで、春画が展示から欠落している状態では、浮世絵の全体像を示したことにならない。

昨年、ロンドンの「大英博物館」で、特別展「Shunga:Sex and pleasure in Japan art」が開催され、大きな反響を呼んだ。
しかし、同展の日本開催に手を挙げる美術館は一つもない。
浮世絵の本家としては、まことに情けない話だと思う。
春画を別室にして、R18規制のゾーニングをしっかりすれば、それで済むこと。
美術館関係者の勇気ある決断を期待したい。


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