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温泉場の性風俗 [性社会史研究(遊廓・赤線・街娼)]

11月30日(月)
渡辺寛『温泉・女・風土記』(1956)(2).jpg
渡辺寛著『温泉・女・風土記』は、1956年(昭和31)11月、春陽堂書店の刊行。
画像は、最近(2015年9月)、カストリ書房から出た復刻版。

渡辺寛は『全国女性街ガイド』(1955年、季節風書房)の著者として知られる風俗ライター。
『温泉・女・風土記』は、彼が『内外タイムス』に連載した「湯女さまざま」、『サンケイ読物』に書いた「旅の女」など、日本各地の温泉場での女性との出会いを記した随筆をまとめたもの。

時代背景的には、売春防止法が成立(1956年5月)した直後、1年半後の1958年3月には、全国の「特飲街」(実態的には売春街)が消えることが決まった時期の出版で、売春防止法施行前の温泉地の性を売る女たちの実態がよくわかる。
同時にいずれ消えゆく(はずの)彼女たちへの愛惜が感じられる。

日本観光新聞社『ローカル探色 風流・温泉境めぐり』(1961)(2).jpg
日本観光新聞社編『ローカル探色 風流・温泉境めぐり』は、1961年(昭和36年)10月、北辰堂の刊行。
日本各地の温泉場での女性との出会いを記した旅行記だが、こちらは単一の著者ではなく、複数の記者による探訪記集。
『日本観光新聞』の長期シリーズで、連載期間は6年に及ぶ。
ということは、最初の掲載は1956年ということになる。
『内外タイムス』と『日本観光新聞』は、ライバル関係にあったことを考えると、『内外タイムス』に連載された渡辺寛の「湯女さまざま」に刺激されて、企画を立ち上げたのかもしれない。

執筆された時期は、売春防止法施行前後、まさに売春業界の激動期であり、温泉地における売春の形態の「変化」をリアルに見ることができる。

SCN_0024(2).jpg
↑ 『ローカル探色 風流・温泉境めぐり』の口絵(栃木・塩原温泉)。
湯煙の中で、こういうお姐さんに出会える、という幻想をかきたてる。

どちらの本も、一人旅の男性が、旅行先の温泉地で、娼婦、芸者といった玄人、あるいはセミプロ、さらには素人風といったいろいろな女たちに出会い「遊ぶ」(性的な意味で)というストーリーになっている。

言い方を換えるならば、男が1人で旅先で泊まると、ごく当たり前のように酒と女が出てくる(食事は必ずしも出てこない)という旅行の形態が、そこにはあった。

こうした旅の娯楽の形態は、少なくとも江戸時代に街道と宿場が整備されて以来、昭和30年代まで、基本的に変わらなかったものと思われる。

では、いったいいつ頃から、そうした形態はマイナー化していったのだろうか。
私が大人になった頃(1970年代末)には、まだ残っていたように思うが、すでに「当たり前」ではなくなっていたように思う。
1980年代には、個人的にはあからさまな買春行為はやりにくくなっていて、大勢(団体)の力で集団買春するのがやっとだったように思う。

それもだんだん寂れていき、温泉地にあった場末感漂うストリップ劇場や怪しいお姐さんがいるスナックの灯が消えていく。
そして、2000年代になると、多くの温泉地が、男性の「性の娯楽」の場という要素を捨て去り、はっきり女性客や家族客にシフトしていく。


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