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『朝日新聞』の訂正記事が変? [現代の性(性別越境・性別移行)]

11月16日(日)
今日の『朝日新聞』にこんな訂正記事が載っていた。
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2日付2面「男が生きる 女が生きる」の記事で、「日本精神神経学会は今年、診断名を『性同一性障害』から『性別違和』に改めた」とあるのは、「日本精神神経学会は今年、米精神医学会の診断手引DSMの診断名の訳語を『性同一性障害』から『性別違和』に改めた」の誤りでした。日本精神神経学会は現在も性同一性障害という診断名を使っています。訂正します。
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なんか、微妙に変だぞ。
これだと、日本精神神経学会が自分たちの都合で訳語を変更したように読めるけど、そもそもアメリカ精神神経学会が疾患名を「変更」したから、それに基づいて訳語が変わったのだ。
もっと厳密に言えば、疾患名の「名称変更」したのではなく、診断基準も代わっているから疾患名の「置き換え」なのだが。

つまり、こういうこと。

(アメリカ精神医学会)       DSM-Ⅳ            DSM-V
(疾患名)          Gender Identity Disorder →  Gender Dysphoria
                     ↓                ↓ 
(日本語訳)           「性同一性障害」    →  「性別違和」

元が変わったのに訳語が変わらなかったら、それこそおかしいわけで、訳語の変更は、DSMに連動しただけの話。
どうして、こんな単純な話が、優秀な成績で大学を卒業し、難関の入社試験を通過したはずの天下の『朝日新聞』の記者が理解できないだろう?

それと、「日本精神神経学会は現在も性同一性障害という診断名を使っています」と言うのも、実際問題どうなのか?
日本はアメリカの属国ではない(と思う)から、日本の精神科医がDSMを使う義務はないのだが、実際問題、DSMに基づいて診断している精神科医は多い。
そうした精神科医が、わざわざ旧版のマニュアル(DSM4)に固執して、「性同一性障害」という疾患名を使い続けるとは思えない。
さっさと新版(DSM5)を購入してそっちに移行するだろう。そうした医師は「性別違和」という疾患名を使うはず。

では、「性同一性障害」という疾患名を使い続ける根拠は何かといえば、世界保健機関(WHO)の疾患リストICD-10が、Gender Identity Disorderを使っているから。
日本は国際連合の専門機関であるWHOのメンバーだから、ICDに準拠する義務がある。
ところが、厳密に言うと、ICD-10には疾患名としてのGender Identity Disorderはない。
Gender Identity Disorder(性同一性障害)は「F64」というカテゴリーの名称で、その中の疾患名として、(F64.0) 「Transsexualism(性転換症)」と(F64.1)「Dual-role transvestism(両性役割服装倒錯症)」とがある。
診断書が診断した疾患名を記す書類であるとするならば、そこに記されるのは「性同一性障害」ではなく「性転換症」もしくは「両性役割服装倒錯症」のどちらかということになる。
(これらの点は、針間克己先生に教えていただいた)
つまり、ICD-10に準拠しても、疾患名としては「性同一性障害」はもうない。

「性同一性障害」という疾患名を診断書に書く医師がいるとすれば、いまだにDSM-4を使い続ける親米的だが旧弊な医師だけということになる。
まあ、実際には、慣習的に「性同一性障害」という疾患名を診断書に書く医師も多いだろうが。

ともかく、もう「性同一性障害」という疾患名に固執する時代ではないということだ。
そこらへんの情況も、賢い『朝日』の記者には解らないのだろうなぁ。

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コメント 6

ran

日本においては、日本精神神経学会が定めた「性同一性障害の診断と治療のガイドライン」を元にした診断を行うことになっています。
ここでの診断名はあくまでも「性同一性障害」です。
DSMはあくまでもアメリカでの基準ですし、日本で行う診療ですので、日本の基準であるガイドラインに従うのが筋でしょう。
訂正記事に関しては、この記事を書かれた記者さんに結構長く説明したのですが、字数の関係等であのような表現になってしまったとのことでした。とはいえ、正確性に欠くことにはまちがいありません。
今後も継続してこの問題を記事にしていくとのことなので、今後に期待したいと思います。

by ran (2014-11-17 22:53) 

三橋順子

ranさん、いらっしゃいま~せ。
おっしゃること、わからないわけではないのですが、「性同一性障害の診断と治療のガイドライン」は独自の診断基準を定めているわけではなく、DSMやICDを「参考にしながら」という形で預けちゃってるんですよね。第4版ガイドラインではDSM-Ⅳ-TRとICD-10を参考にすることになってますが、次のガイドラインではDSM-V(さらにはICD-11)を参考にする形に改訂されるべきだと思います。
そのとき、疾患名が「性同一性障害」のままでは、辻褄が合わなくなります。
まあ、現状は3年後のICD-11施行までの移行期ということで、「性同一性障害」が残るのは仕方がないと思います。

by 三橋順子 (2014-11-17 23:50) 

ran

すみません。正確には「性同一性障害に関する診断と治療のガイドライン」でしたね。
さて、参考にしながらとは書いてありますが、一応診断方法は書いてあるわけで、全て預けているわけではないでしょう。
それと、DSM-5(ちなみにⅤではなく5です、今回からアラビア数字に変わりました)は、あくまでもGender Dysphoriaに関する診断基準なので、性同一性障害の診断基準にこれを適用すると、辻褄が合わなくなってしまいます。
私は、Gender Dysphoriaは、今まで疾患でなかったXジェンダーの人も疾患概念に取り込んでしまったことで改悪とすら思っているので、これを取り入れることには反対です。
それに対してICDの改定では今のところ身体的治療を必要とする人に限定する方向で議論が進んでいるとも聞いていますので、望ましい方向ではないかと思います。
いずれにしても、ICD-11がどう最終的に変わるかですね。それによって名称含め諸々変更になるでしょう。
by ran (2014-11-18 01:19) 

三橋順子

ranさん、いらっしゃいま~せ。
「性別違和」は、たしかに「焼け太り」で、私もどうかと思います。
でも、DSM-5が出ているのに、この部分だけDSM-Ⅳ-TRを参考にし続けるってかなり無理がありますね。
まあ、ICD-11では、精神疾患から外れるのはかなり有力な状況で、私は性別越境・性別移行が脱精神疾患化されて、日本からも「性同一性障害」という病名が消えるのなら、それで目標達成ですから、それでいいです。

by 三橋順子 (2014-11-18 06:51) 

ran

>日本からも「性同一性障害」という病名が消えるのなら、それで目標達成

そういう目標をお持ちだったんですね。
まぁ、私も脱精神疾患には賛成ですが「性同一性障害」という病名は嫌いではないですよ。
Anno Job Log にも誰か書いていましたが「性別違和」では軽すぎるように思いますし、何といってもこの疾患は自身の同一性=アイデンティティが脅かされる・危機に晒されることが大きな要素だと思っていますので。
来年にでも、この件に関して議論できる場を設けたいと思っています。
その節は、ご協力をお願いできれば幸いです。
by ran (2014-11-21 22:32) 

三橋順子

ranさん、いらっしゃいま~せ。
別に「性同一性障害」という病名に恨みがあるわけではないのですが、性別移行の精神疾患化の象徴になってしまったので、変えるしかないと思います。
「性別違和」については、私はもともと症状名をそのまま疾患名にすることには反対なので、その点で違和感があります。
「軽すぎる」という意見ですが、DSM5は「軽くする」ことで診断の範囲を広げたわけで、まさに「焼け太り」を象徴する名称だと思っています。
ICD-11が「Gender Incongruence(性別不一致)」になるのなら、その方が良いかなと思っています。

>その節は、ご協力をお願いできれば幸いです。
はい、できることは、いつでもお手伝いします。
by 三橋順子 (2014-11-22 01:32) 

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