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いつの間にか同性愛の不可視化が進んでいる? [現代の性(同性愛・L/G/B/T)]

11月2日(日)
今朝の『朝日新聞』の1面トップに、「『自分』を追い詰めた性別」という見出しで、若くして亡くなった性同一性障害(FtM)の人のことが載っている。
20年前には考えられないことで、つくづく良い時代になったと思う。

しかし、記事を読んでいくと、「性同一性障害などの性的少数者は20人に1人とされる」と書いてあって、「おいおい、いつから性同一性障害は性的少数者を代表するようになったんだ?」と思ってしまう。

20人に1人というのは5%。それはまあいい。
私が学んできたセクシュアル・マイノリティ論では、5%の内の4.99%くらいはゲイ、レズビアン、バイセクシュアルで、性同一性障害の人は0.01%くらい(1万人に1人)のはずだった。
「今はもっと増えている」ようなので、今年の講義では1万人に3人、つまり0.03%という数値で説明している。

それでも、性的少数者5%の内訳はゲイ、レズビアン、バイセクシュアルが4.97%で性同一性障害は0.03%ということになる。
性同一性障害などの性的少数者は20人に1人とされる」という記述は、0.03%で5%を代表させていいのか?という疑問に通じる。

いや、性同一性障害が同性愛より圧倒的多数なのが日本の現状なのだ、お前の学んだセクシュアル・マイノリティ論は古い!と言われれば、老人は引っ込むしかない。
しかし、それなら、なぜ世界の中で日本だけが、性同一性障害が同性愛より圧倒的に多数なのかを考えるべきだ。

「性同一性障害などの性的少数者は20人に1人とされる」という書き方の問題は、4.97%の人たち(ゲイ、レズビアン、バイセクシュアル)が不可視化されてしまう点にある。
まあ、今朝の『朝日新聞』では2面の方で同性愛についても記しているが・・・。

私がトランスジェンダーとしての自覚を持った頃(1990年代)は、ゲイ&レズビアンの言説の中で100分の1しかしないトランスジェンダーが不可視化されないよう、声を上げるのに必死だった。
でも、この10年ほどの日本のマスメディアでは、まったく逆の現象が起きていて、性同一性障害が報道によってどんどん顕在化される一方で、ゲイ、レズビアン、バイセクシュアルについての報道は少なく、むしろ不可視化が進んでいる感さえある。

その結果、「同性愛は性同一性障害の一種」とか「性同一性障害より、同性愛の人はずっと少ない」とか、私が椅子からずり落ちそうになるコメントを書いてくる学生が出てくる。
とりわけ、レズビアンの不可視化は深刻で「日本にはほとんどいない」という認識は若い人の間でけっこう広まっている。
(「ゲイが皆、オネエである」という認識の広がりも深刻なのだが・・・)
こういう事態、ゲイ&レズビアン、バイセクシュアルの当事者の方は、どう考えているのだろう?

ところで、レストランでメニューにない料理を注文できる人はごく少ない。ほとんどの人はメニューの中から料理を選ぶ。
それと同じで、人は目の前に並んでいる概念にしかアイデンティファイ(カテゴリーへの同一化)できない。私はこれを勝手に「メニュー理論」と言っている。

現在、若い者の前に示されるメニューには、「今月のおすすめ」として「性同一性障害」が大書されているのに対し、「同性愛」はかなり小さい文字でしか書かれていない状態にたとえられる。
若い女性に示されるメニューには、「性同一性障害(FtM)」しか書いてないように見える。
よく見ると、ほんの小さな胡麻粒のような字で「レズビアンもあります」と書いてある感じ。
これでは、自分の性の有り様が非典型だと感じている若者が、口に合わないメニューを注文してしまう、本来ならつかむべきでないカテゴリーを選択してしまうのも無理からぬ状況になっている。

そんなこともあって、昨月末、お籠りして、ある大学の研究所の論集に「日本におけるレズビアンの隠蔽とその影響」という論文を書いたのだが・・・、担当のフリーランスの編集者が出版社に企画書を出さずに音信不通になるという信じられない事態が発覚し、原稿締め切り後に出版社を変更ということになり、いつ日の目を見るかかなり不安な状態になってしまった。

まあ、努力が報われないのは、世の常のことで、メゲずに賽の河原で石を積み重ねていくしかないのだろうな、と思う秋の昼下がりである。
(ああ、もう11月になってしまったぁ!)

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コメント 16

ひろ

「同性愛は性同一性障害の一種」
これはもう世間一般の常識になりつつあるのでは?
原因は先生のご指摘の通り、マスメディアでの扱い方がそのようなものだからではないでしょうか。
今回の朝日新聞の記事の論調も、かわいそうな人(性的マイノリティ)を哀れんでやっている、というような心情が透けて見えるような気さえしました。
by ひろ (2014-11-02 13:22) 

GandhiGanjee

日本のメディアでは、「オネエ」のみ突出して「可視化」される一方、同性愛がその逆になっている…。なるほど、そうかも。話題としても同性愛というのは出しにくい。

つい最近、アメリカではアップルCEOティム・クックがゲイであることをカミングアウトしたけれど、マイミクでアメリカ在住の経済学者レイコさんは、3年も前にティム・クックがゲイであることをmixiに書いていた。

上記の現象は、少なくともアメリカでは起こっていない。僕自身もレイコさんにmixi上で聞いたことがありますが、彼の周りなどアメリカのインテリの間では、ゲイであることはオープンにするのが普通のようです。
by GandhiGanjee (2014-11-02 17:17) 

船橋 祐一

はじめまして。こんにちは。
三橋先生のブログやYouTubeにあがっている講義、大変役に立ち勉強になるので日々見ています。
さて今回のこの件ですが、この日本では、シスジェンダーホモセクシャルより、トランスジェンダーヘテロセクシャルの方が一般世間には認識、理解されやすいということなのでしょうか?
性的マジョリティからの方達からすると、男→女/女→男という形の性的指向が当たり前すぎて、というかそれに囚われ過ぎて同性愛の場合の男→男/女→女という指向を理解するより性自認が身体の性と逆で、ヘテロセクシャルとしての指向の方が捉えやすいからということなのでしょうか?
これは私の経験ですが、(私はゲイです)ゲイだということをカミングアウトしても、周囲の人には、自分が女として男を好きという理解があるようです。(勿論、私は性自認は男なのでそうではないことを説明しましたが周りは理解しにくいようで訝しげな感はあります。)男として男に対して性的指向があるということの理解は、我々性的マイノリティが思ってるよりは遥かに難しいように感じます。理屈はわかるけど、感覚的に理解できてないのだと。
それもあって性的少数者の中でトランスジェンダーヘテロセクシャルの方々が最も理解がしやすいから可視化されつつあるという事をあるのかなと感じてます。

by 船橋 祐一 (2014-11-02 17:19) 

C Sato

まほろ駅前狂想曲
という、瑛太さんと松田龍平さん主演の映画に、
女性の同性愛カップルがでてきました。
ご指摘の、レズは、ホモより、不可視化、されている、
確かに、と感じますが、
少しずつでも、良い方向だと、よいのに、と思っています。

女性の性欲、は男性より抑圧されている、
シンプルな、ジェンダー論には、どうかしら、とも思いますが、
シンプルに計量すると、事実かも、とも思います。
by C Sato (2014-11-02 22:15) 

AJ

具体的数字は公にされていませんが、例の電通の調査は実は5%の中でLGBうよりも、トランスジェンダーが多数を占めていたらしいです。

朝日記事に限りませんが、故人を記事にするマスコミには、故人のプライバシー保護という視点がなく、違和感を覚えます。
by AJ (2014-11-03 10:14) 

べにすずめ

この論文、とても読みたいです。
日の目を見るといいですね。
by べにすずめ (2014-11-03 18:44) 

o-tsuka

「電通 LGBT」でググればトップに出てきますよ。
http://dii.dentsu.jp/project/other/pdf/120701.pdf
(pdf注意)

5.2%中、Tが4.1%、Bが0.7%というちょっと信じがたい内容です。
by o-tsuka (2014-11-14 17:51) 

三橋順子

ひろさん、いらっしゃいま~せ。
はい、メディアの報道の歪みの影響が大きいです。

>かわいそうな人(性的マイノリティ)を哀れんでやっている
これについては「かわいそうな人と憐れんで欲しい」当事者がある程度いるのは現実なので、メディアがそこに付け込んで記事・番組を作っている部分はあります。
by 三橋順子 (2014-11-15 14:25) 

三橋順子

GandhiGanjeeさん、いらっしゃいま~せ。
>アメリカのインテリの間では、ゲイであることはオープンにするのが普通のようです
アメリカの場合、同性愛を許容するのは、リベラル派の証明みたいな感じですから。
でも、それとほぼ同じ比率で同性愛を認めない保守派がいるわけで・・・。
日本では、それほどはっきりした線引きは見られませんが、やはり自民党右派より右の政治的立場の人には、同性愛を否定する人が多いですね。

by 三橋順子 (2014-11-15 14:28) 

三橋順子

船橋 祐一さん、いらっしゃいま~せ。
ご経験されたこと、よくわかります。
私もさんざん「男が好きだから女になったのだろう」「わざわざ女になったのだから男が好きなんだろう」とさんざん言われましたから。
「性の多様性」論の講義では、「この『〇〇だから●●だろう』という連想(連動)をまず断ち切るように」と、くどいほど説明します。
そこが断ち切れると、ずっと学生の理解が進むのですが、一般の人はそうしたことを学ぶ機会がないので・・・。

それと、、シスジェンダー・ホモセクシャルとトランスジェンダー・ヘテロセクシャルの社会的認識ですが、前者が比較的理解されやすい社会(欧米)よと、校舎が理解されやすい社会(日本、タイなど)とがあるのは、かなり確かで、そこには文化的・歴史的な背景があると思います。

by 三橋順子 (2014-11-15 14:37) 

三橋順子

C Satoさん、いらっしゃいま~せ。
>「まほろ駅前狂想曲」
この頃、テレビドラマのフォローができなくなっているので、情報、ありがたいです。
by 三橋順子 (2014-11-15 14:40) 

三橋順子

AJさん、いらっしゃいま~せ。

>電通の調査は実は5%の中でLGBうよりも、トランスジェンダーが多数を占めていたらしいです。

はい、この調査をどう考えたらいいのか、ご見解をうかがいたいと思っていました。
それが事実なら、なぜ日本が欧米とかけ離れた状況なのか、その理由を学問的に説明しないといけません。
「日本はこうなのだ」で済む問題ではありません。

>故人を記事にするマスコミには、故人のプライバシー保護という視点がなく、違和感を覚えます。
はい、同感です(自戒を込めて)。

by 三橋順子 (2014-11-15 14:43) 

三橋順子

べにすずめさん、いらっしゃいま~せ。
没にはならないと思いますから、いつかは日の目を見るでしょう。
ただ大学の偉い先生方が執筆する論文集は、平気で年単位で遅れることがありますので、いつになるかはわかりません。
たとえば、私が男色&男性同性愛について書いた論文は、今年の3月に出るはずが、秋に延びて、さらに来春になりそうです。
出版されたら、このブログで、ご案内します。
by 三橋順子 (2014-11-15 14:47) 

三橋順子

o-tsukaさん、いらっしゃいま~せ。

知らないわけでなく、信じられないからデータを使わないのです。
この調査、設問の仕方に問題があると思います。
AJさんへのお返事にも書きましたが、このデータが本当なら、なぜ日本はそうなのかを学問的に考えないといけません。
by 三橋順子 (2014-11-15 14:49) 

Gen

ゲイは女の気持ちで男を愛する、というのが一般の理解らしいことは最近分かってきました。
不思議なのが、なぜ、自分の周りの人々はそうでなかったのか?ということ。
思春期の頃、私は美術部に所属していくばん変わった友達と楽しい放課後を過ごしていました。
同性愛物は流行りで、レズ物もゲイ物もあり、誰かが助平な漫画本を仕入れてくると「おお~♡」と回し読みしたものです。
(みんな女子です。さすがに男子とは共有してない)
みんな普通は嫌で、「花とゆめ」という、少女マンガ雑誌には当時珍しい、男女の恋愛以外の話が多く掲載された漫画を読んでいました。
同性愛ごっことかもふざけてしました。
そういう環境だったせいか、自覚がなかった頃から「男が男を普通に愛する。普通じゃん」と思っていたので、一般では違うと聞いても理解しがたいんです・・・。
ていうか、むしろそっちに理想を見てました。
様々な障害があるにも関わらず互いが好きで一緒にいる、しかも日本では将来が見えない。同棲はできても結婚は不可・・・。
それでも、というところが本物だな、と思いまして。
普通の男女の恋愛のあるべき姿(結婚して子供を生み女は子育てして家を守り、男は外で働いて云々)という奴に私はどうしても価値を見いだせなかったし、互いに打算も見えて、こんなことしたくない、と・・・。
こんなもんだよ、と失望した既婚者が口々に言うので。
男が男らしい男に惚れてなにがいけないんでしょう?
昔の日本はそういう感覚、よくあったみたいなのに。
昭和の文人の付き合いの濃い事と言ったら、寝る寝ないなんて話じゃないんですけどね。
あいつが死んだら俺も死ぬ、とか、平気で言ってるし。
菊花の契りだって、まあ、あれは男色の契りの深さを表した話ですが、戦時中だって兵隊さんは「俺が死んだら魂魄となって貴様を守るからな」とか言ってたし。
魂で結びついてるあの感じは、外国には見られない、特殊なありようのようで、感動的なんですけど。
日本は敗戦後次第にそうした豊饒な土台を失ってきたようですね。
つまらないなぁ・・・・。
どうしてみんな、理解できないんでしょうね?
なんでレズビアンだとイメージ的にタチしかいない、とか、貧困なんでしょう?
タチがいればネコもいて当然だし、女はいつも「下」なのも自分的には?なんですよね・・・・。
まあ、最後は余計ですけど。
はぁ・・・(ため息)


by Gen (2014-11-15 23:42) 

o-tsuka

三橋さん、お返事ありがとうございます。
同感です。
by o-tsuka (2014-11-17 17:42) 

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