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「戸籍の性別変更をした人」の都道府県別人口比(GID特例法施行後10年のデータから) [現代の性(性別越境・性別移行)]

8月29日(金)
針間克己先生のブログに載っていた「性同一性障害者の性別の取扱いの特例に関する法律3条1項の事件:新受件数家庭裁判所別」のデータに基づいて、GID(性同一性障害)特例法によって戸籍の性別変更をした人の都道府県別人口比を算出してみた。
http://d.hatena.ne.jp/annojo/20140827
性別変更の申請を受理された人数は2004~2013年の10年間の合計である。
ちなみに、GID(性同一性障害)特例法による戸籍の性別変更は、法律で定められた要件を満たしていれば、まず問題なく許可されるので、申請受理人数≒許可人数と考えて問題はない。
(なので、以下、「戸籍の性別変更を申請して家裁に受理された人」を「戸籍の性別変更をした人」と記す)
都道府県の人口は2010年の国勢調査によった。
おおまかな傾向を見るためなので、統計的な処理ではなく、単純な「割り算」である。

順位 県名  人口比   変更者数(2004~2013年)       人口(順位)
1 東京  13120 1003(34,77,75,74,103,107,104,128,149,152)13,159,388(1)  
2 大阪  14850  597(27,41,40,54,60,51,71,82,93,78)   8,865,245(3)  
3 沖縄  16581   84(1,1,0,0,8,7,13,15,19,20)      1,392,818(30)  
4 神奈川 23749  381(3,19,23,24,45,47,40,48,63,69)   9,048,331(2)  
5 愛知  24061  308(7,12,11,14,31,38,40,56,56,43)   7,410,719(4) 
6 千葉  24378  255(6,9,17,13,27,32,28,30,49,44)    6,216,289(6)  
7 埼玉  24981  288(3,16,20,21,27,25,40,37,52,47)   7,194,556(5)  
8 奈良  25468   55(3,0,4,5,5,3,9,12,8,6)      1,400,728(29)  
9 兵庫  25991  215(11,12,14,13,23,21,15,38,34,34)  5,588,133(7)  
10 広島  30434   94(6,4,3,5,8,10,22,6,17,13)    2,860,750(12)   
11 京都  32951   80(4,10,4,7,9,4,8,10,14,10)     2,636,092(13)  
12 和歌山 34559   29(0,2,1,2,3,3,6,3,3,6)      1,002,198(39)  
13 三重  34995   53(0,0,2,2,2,4,14,6,12,11)     1,854,724(22)   
14 徳島  35704   22(4,1,1,0,2,2,3,4,1,4)        785,491(44)  
15 岡山  36024   54(2,1,2,5,3,6,7,6,11,11)     1,945,276(21) 
16 岐阜  37832   55(0,2,4,1,7,1,9,4,12,15)     2,080,773(17)  
17 福井  38396  21(1,0,2,1,3,1,5,1,5,2)       806,314(43)  
18 香川  39834  25(3,2,0,1,2,4,1,3,5,4)       995,842(40)  
19 福岡  40254  126(2,5,6,6,8,17,12,7,28,35)    5,071,968(8)
20 北海道 40788 135(4,6,4,14,13,13,27,16,18,20)   5,506,419(9)  
21 高知  42470   18(2,2,1,1,0,3,1,4,1,3)      764,456(45)  
22 山口  45354   32(0,4,0,0,0,3,1,5,4,15)      1,451,338(25) 
23 静岡  47063   80(4,0,1,3,5,12,18,13,8,16)    3,765,007(10)   
24 滋賀  48647   29(0,0,0,2,1,6,2,7,6,5)      1,410,777(28) 
25 茨城  48685   61(0,1,6,0,7,6,11,6,13,11)    2,969,770(11)   
26 宮城  49961   47(2,2,4,2,2,8,5,8,7,7)     2,348,165(15)  
27 群馬  50202   40(1,1,3,0,3,4,4,3.8,13)     2,008,068(19)  
28 栃木  51479   39(0,2,1,2,7,6,6,3,6,6)     2,007,683(20)  
29 宮崎  51601  22(1,0,0,0,2,0,0,6,4,9)      1,135,233(36)  
30 熊本  56795   32(1,0,2,0,4,1,8,4,4,8)     1,817,426(23)  
31 鳥取  58867   10(1,0,2,1,2,1,0,1,1,1)      588,667(47)  
32 愛媛  59646   24(1,1,0,1,5,3,2,5,4,2)     1,431,493(26)  
33 富山  60736   18(0,0,1,0,2,1,5,1,1,7)     1,093,247(37)  
34 石川  64988   18(0,0,0,1,1,1,6,2,1,6)     1,169,788(34)  
35 福島  69230   29(0,1,1,3,0,3,4,6,5,6)     2,029,064(18)  
36 新潟  76595   31(1,1,0,1,1,2,5,11,3,6)     2,374,450(14)  
37 長崎  79266   18(1,1,2,0,1,1,2,2,4,4)     1,426,779(27) 
38 大分  79769   15(0,0,0,3,1,2,1,1,2,5)     1,196,529(33)  
39 鹿児島 85312   20(1,0,2,0,4,1,4,1,2,5)     1,706,242(24)  
40 長野  86098   25(1,3,0,1,0,2,2,3,6,7)     2,152,449(16)  
41 山形 106266   11(0,0,0,0,0,1,2,1,2,5)     1,168,924(35) 
42 山梨 123296    7(0,0,0,1,0,0,0,1,1,4)      863,075(41)  
43 青森 124849   11(0,2,0,0,2,0,2,1,0,4)     1,373,339(31)  
44 佐賀 169958    5(0,1,0,0,0,1,0,0,0,3)      849,788(42)  
45 秋田 181000    6(0,2,0,0,2,0,2,0,0,0)     1,085,997(38)
46 島根 239132    3(0,0,0,0,0,0,0,0,1,2)      717,397(46)  
47 岩手 266029    5(0,0,0,0,1,0,1,1,0,2)     1,330,147(32) 
― 全国  28306 4524(130,243,257,284,440,466,537,639,742,786)
                                 128,057,352  
【考察】
全国平均では、2万8000人に1人の率になる。
しかし、これは東京・大阪の大都市圏にかなり引っ張られているので、中央値の4万7000人程度が目安になると思う。
おおまかには、首都圏、東海地方、大阪と南近畿、山陽、そして沖縄が高率で、東北地方(とりわけ北東北)、甲信越、山陰、西九州などが低率になっている。
以下、地域別の傾向を述べる。

1 北海道
北海道は広域なので、通常1都府県1つの家庭裁判所が4つも置かれている(札幌・函館・旭川・釧路)。
統計データもそれぞれ出ているので、それを合算した。
結果は4万人に1人の率で全国中位の20位。
GID医療の北の拠点札幌医大がある割には冴えない。
そこで、それぞれの家裁の管轄を調べて、市町村別の人口を計算して(すごく面倒)、家裁別のデータに戻してみた。
札幌家裁  35019 96(4,2,2,11,10,10,21,8,13,15) 3,361,857   
函館家裁  38607 12(0,1,0,1,1,1,2,4,2,0)     464,044     
旭川家裁  68294 11(0,2,1,0,2,1,1,1,2,1)     751,231   
釧路家裁  58112 16(0,1,1,2,0,1,3,3,1,4)     929,787    
札幌家裁は、ほぼ岡山県(14位)並、函館家裁は福井県(17位)並、釧路家裁は鳥取県(31位)並、旭川家裁は福島県(35位)に近い値。
予想通り、道内で大きな格差があることがわかる。

2 東北地方
北東北は、岩手が全国最低の47位、秋田が45位、青森が43位、山形が41位最下位層に沈んだ。
若干なりとも健康に関わるデータランキングで、北東北3県ほとんど常に下位に沈むが、ここでも同様の結果が出てしまった。
岩手の26万人に1人というのはあんまりなデータで、山形ですら10万人弱に1人。
北東北では、性別を変更した人は極めてまれで、秋田市、盛岡市、青森市、山形市の県庁所在都市でも1~2人いるかどうかという状況。
南東北は、それに比べれば、まだまし。
とはいえ、福島県は35位、仙台市を抱える宮城県ですら26位で、全国的には半分より下。
こうした状況は、やはり、東北地方にGID医療の拠点が1つもないことが影響しているように思う。
地域医療の拠点としての責任、東北大学などはどう考えているのだろう。
同時に、以前、秋田市で講演をしたとき、「秋田のMtFはほとんど外に出られないのですよ」と担当者が言っていたことを思い出す。
性別移行をした人を社会が受け入れるという環境面で、かなり問題があると思う。

3 北関東・甲信越
この地域もほとんどが下位から中位。
北関東3県は5万人に1人というレベルで、栃木28位、群馬27位、茨城25位。
ここらへんは、地元に診療拠点がなくても、その気になれば東京のクリニックを受診できるはず。
理想的には、2013年に数字が伸びている群馬県あたりに医療拠点があればと思うが(群馬大学とか)。
甲信越は、意外に低率。
まだましな新潟ですら7万6000人台で36位。
長野で8万6000人に1人で40位。
山梨にいたってはさらに低く12万人に1人で42位と全国でも最下位層に沈んでいる。
甲信越地域は、上越・長野新幹線や中央本線の特急「あずさ」「かいじ」を使えば、東京のクリニックを受診することは可能だと思う。
新潟駅から東京駅まで「とき」で2時間23分、長野駅から東京駅まで「あさま」で2時間11分。
実際、知人で長野県から神田小川町まで通院している人がいる。
もう少し数値が上がってきてもいいように思うのだが、東北と共通する社会的受け入れの問題があるのだろうか。
ただ、山梨県はそれまで累計3人だったのが2013年に4人と急増した。
埼玉医大から百沢明先生が山梨大学に赴任してSRSを始めた効果が早くも現れたのか。

4 南関東(首都圏)
全国で最も人口が集中する大都市圏で、GID関連の医療機関も充実している。
首都東京は1万3000人に1人で1位。
神奈川(4位)、千葉(6位)、埼玉(7位)の首都圏3県はほとんど差が無く2万4000人に1人。

5 東海・北陸地方
大都市名古屋を抱える愛知が首都圏並みに2万4000人に1人で5位。
隣接の岐阜(16位)と静岡(23位)も全国で半分より上。
注目は三重で、3万5000人に1人で13位に入っている。
三重については、また後で述べる。
北陸3県は、福井が3万8000人に1人で17位。
富山(33位)と石川(34位)はそれより低率で6万~6万5000人に1人で、、新潟(36位)に近い。

6 近畿地方
大都市圏の大阪が1万5000人に1人で2位。
東京とは大きな差はない。
神戸市がある兵庫県も2万6000人に1人で9位。
京都市がある京都府は3万3000人に1人で11位。
両府県とも都市部は言えない日本海側を抱えている割には良い数値。
滋賀県は4万9000人に1人で24位。
近畿圏ではいちばん低率だが全国的に見れば中位。
興味深いのは、奈良が2万5000人に1人の首都圏並みの数値で8位に入っていること。
さらにその南の和歌山も3万5000人に1人で12位。
これと先に述べた三重(13位)を加えると、紀伊半島の三重、奈良、和歌山の3県が高率地域を構成する。
なぜ、この地域が高率なのか、ちょっと理由を思いつかない。

7 中国地方
山陽は、3万に1人の広島が10位。
続いて3万6000人に1人で岡山が15位。
山陽の2県が全国的に見ても高率なのは、西日本におけるGID医療の最大拠点岡山大学があるからだろう。
山口は4万5000人に1人で全国中位の22位。
山口だと岡山に通院するのは少し辛いのか。
山陰は、鳥取こそ5万9000人に1人で31位だが、島根は24万人に1人という極端に悪い数値で46位と全国的に見て最下位層。
島根県の松江市から岡山大学がある岡山市まではJR伯備線の特急「やくも」で2時間35分、通院できない時間距離ではないと思うのだが。
ちなみに、鳥取市からだと、もっと近くて特急「いなば」で1時間46分。
島根と広島の差はなんと7.9倍、島根と鳥取の差でも4.0倍。
医療拠点へのアクセスという利便性だけでは説明がつかないと思う。

8 四国地方
岡山大学との時間距離という点で、興味深いのは四国。
徳島が3万5000人に1人14位、香川が4万に1人で18位。
対岸の岡山(15位)とほとんど同じレベル。
これは瀬戸内海を挟んでいるとはいえ、やはり岡山大学との時間距離の近さだろう。
高松-岡山間はJRの快速マリンライナーでわずか58分、徳島-岡山でも特急「うずしお」で2時間10分だから、通院可能だと思う。
意外なのは、4万2000人に1人で21位の高知。
大都市圏を抱える福岡や北海道に次いでいる。
6万人に1人で32位の愛媛よりも、かなり高率。
高知と愛媛を比べれば、どう考えても高知の方が交通不便。
ここも、利便性では説明がつかない。

9 九州地方
九州は、全体的に低率。
大都市福岡市・北九州市を抱える福岡ですら4万人に1人で19位。
次が、5万1000人に1人で29位の宮崎。
2011年頃から急増しているのは宮崎大学にジェンダー・クリニックができたからだろうか。
その後が5万6000人に1人で30位の熊本。
以下、37位に長崎、38位に大分、39位に鹿児島、44位に佐賀と下位に沈む。
長崎大学には九州で最初にオープンしたジェンダー・クリニックがあるのに、数値に現れていないのはなぜだろう。
やはり、社会的受け入れの問題だろうか。

10 沖縄地方
最後に、「真打」の登場、東京と大阪の大都市圏に伍して堂々の全国3位の沖縄県。
1万6000人に1人の割合。
おそらく、この数字を見た人のほとんどが「なぜ?」「有り得ない」という感想をいだくのではないだろうか。

2万以下なのは東京・大阪・沖縄だけで、首都圏の神奈川や中京の愛知に大差をつけている。
大都市圏が高率なのは、医療環境が整備されつつあるだけでなく、社会的受け入れが比較的進んでいて、性別を移行する人が暮らしやすいので、おそらく地方からかなりの人が集まってきているからだと思われる(都市への移住効果)。
しかし、沖縄の場合、そうした移住効果が大きいとは思えず、実際に観察していても、沖縄のGIDは沖縄土着の人がほとんどだ。
なぜ沖縄はこんなにGIDによる戸籍の変更が高率なのか?
これこそ、日本のGIDに関する最大の謎であり、同時にGIDの地域的偏在を考える上での有力な糸口だと思う。

那覇市には、山本和儀先生の「山本クリニック」と宮島英一先生がいる「クリニックおもろまち」というGIDの診断をしてくれる病院があるが、いずれも大病院ではない。
今年になって沖縄県立中部病院がGID患者を受け入れるようになったものの、少なくとも今までは必ずしも医療体制に恵まれているとは言えなかった。
では、なぜ?

「それはね、日本でいちばんバンコクに近いのは沖縄なんですよ」
沖縄のある当事者の方が本気とも冗談ともつかない口調で語ってくれた。
たしかに、タイ航空の那覇空港からバンコク・スワンナプーム空港直航便(不定期)はフライト時間4時間30分で、羽田空港より片道約2時間も近い。
しかし、沖縄が東京並の高率である理由としては弱い。
やはり、医療へのアクセスという観点では沖縄のGIDの突出した高率は説明がつかないと思う。

私はGIDの出現率を先天的要因×後天的要因で考えている。
つまり、先天的要因は、おそらく地域・時代に関わらずほぼ一定だが、そこに地域・時代によって異なる「文化」・社会構造の影響を受ける後天的要因がファクター(係数)として掛かってくると考える。
沖縄の場合、人種的な遺伝特性からして、本土と大きな差異があるとは思えず、先天的ものが原因とは思えない。
沖縄にGIDが多い理由は、沖縄の社会構造、文化的特性に基づいていると考えるしかない。
それが何かということについては、ある程度の見通し(仮説)はもっているが、長くなるので詳しくは記さない。
ポイントは、次の4点。
(1) 沖縄のGIDの高い出現率を支えているのはもっぱらFtM(Female to Male)である。
(2) 本来ならレズビアン・カテゴリーに収まるはずの人たちの一部(10~20%)がFtM化している。
(3) 女性―女性の関係性(レズビアン)を、FtM-女性の関係性(擬似ヘテロセクシュアル)に移行させるような社会圧が沖縄は本土より強い。
(4) その社会圧の主な要因は儒教的な家族規範・家父長制と思われる。

まとめ
① 全国平均は2万8000人に1人だが、中央値は4万7000人に1人である。
② 地域格差がかなり大きい。最も高率の東京と、最も低率の岩手の差は20倍に及ぶ。
③ 医療アクセスへの利便性が地域差の主な原因になっているのは確か(大都市圏・山陽の高率、東北地方の低率)。
④ しかし、医療アクセスへの利便性だけでは説明がつかない現象がみられる(沖縄の突出、山陽と山陰の顕著な差、三重・奈良・和歌山の高率、愛媛と高知の逆転など)。
⑤ 地域格差には、利便性以外の社会・文化的要因(風土。気質)が社会的受け入れの差となってかなり関わっている可能性が強い(沖縄の特異性)。

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コメント 3

AJ

こちらも再チェックし、順位が無事一致しました。
助かりました。
by AJ (2014-08-30 08:35) 

みれい

こんばんは。
住民基本台帳での人口の増減率と比べてみても
興味深いものがありますね。

地域経済が芳しくない地域では生活のために
性別より先に住所のほうを変えてしまいそうです。

マイルドヤンキー(地元族)的な人が地方で増えているとも言われていますが、
村社会や世間体が比較的強い影響力を持つ地方で
‘どのようにして生活していくか’が考えさせられます
(消滅可能性自治体とかでは性別を変えない人も)。
by みれい (2014-09-01 23:44) 

三橋順子

みれいさん、いらっしゃいま~せ。
基本的には人口密集度が高い都会ほど、しかも「仕事」がある活気がある地域ほど、性別移行が高率になるように思います。
それは誰でも気が付くことなのですが、それだけでは説明できない部分があるのです。
沖縄とか和歌山とか高知とか・・・。

by 三橋順子 (2014-09-02 12:05) 

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