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今、「性同一性障害」という病名がなくなるわけではない [現代の性(性別越境・性別移行)]

5月28日(水)
どうも一部に、日本精神神経学会が「性同一性障害」という病名を「性別違和」に変更したかのような誤解があるようだが、それは違う。

まず、ここは日本だから、アメリカ精神神経学会の精神疾患分類であるであるDSM(Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders:精神疾患の分類と診断の手引)は、拘束力をもたない(影響力はあるが)。
2013年5月のDSM-4からDSM-5への移行に伴い、アメリカにおける精神疾患名(病名)がどう変わろうが、基本的に日本精神神経学会が影響を受ける筋合いのものではない。
まあ、日本はアメリカの属国だから、DSMに従うべきだと言うのなら話は別だが・・・。

今回のDSMの改訂では、これまでの「Gender Identity Disorder」(日本語訳:性同一性障害)という疾患名はなくなり、「Gender Dysphoria」という病名に置き換えられた。
このことは、すでに昨年5月にアメリカで実施されていたことだ。
今回、日本精神神経学会がDSM-5を翻訳するに際して、いくらなんでも「Gender Dysphoria」を「性同一性障害」とは訳せないから、「性別違和」という訳語を選択しただけ。
この点、「性別違和」になるのか、「性別違和症」になるのかが注目だったが、どうやら「性別違和」に落ち着いたようだ。

もう一度言うが、「Gender Identity Disorder」を「Gender Dysphoria」に置き換えたのはアメリカ精神神経学会であって、日本精神神経学会ではない。
単なる訳語の問題である。
報道が日本精神神経学会が疾患名を改めたかのように言っているのは間違いだと思う。

日本の精神神経学界が基本的な依拠すべき診断基準は、日本が加盟している国際連合の専門機関である「世界保健機関(World Health Organization=WHO)」の診断基準であるICD(International Statistical Classification of Diseases and Related Health Problems:疾病及び関連保健問題の国際統計分類)である。
現行の第10版(ICD-10)には、「Gender Identity Disorder」(性同一性障害)という精神疾患グループが規定されている。
この「性同一性障害」は、「Transsexualism(性転換症)」と「Dual-role transvestism(両性役割服装倒錯症)」という疾患から構成されているが、少なくともICDの次の改訂まで、性同一性障害という名称はなくならない。
現在のところ、ICD-11の施行は改訂作業の遅れで、当初の2015年からずれ込み、2017年になる予定である。
あくまでも今のところでの話だが、ICD-11では、これまでの「Gender Identity Disorder」(性同一性障害)という名称はなくなり、「Gender Incongruence」という名前に置き換えられる可能性が強い。
「Gender Incongruence」を直訳すれば「性別不一致」(もしくは「性別不一致症」)である。
さらに、その位置づけも、従来の「精神疾患」から「その他の疾患」に変わる可能性がある。
世界のトランスジェンダーの多くは、そして私も性別移行の「脱精神疾患化」を強く望んでいるが、いろいろな事情もあり、まだ確定的ではないようだ。

ということで、日本精神神経学会が名称の変更に迫られるのは、ICD-11の施行後のことになる。
その時には、単なる名称の改定に止まらず、日本における性別移行と医療の在り方を大きく考え直し、再構築する必要があるだろう。
さらには、法律(「性同一性障害者の性別取扱い特例法」)の名称の変更(法改正)も必要になる。
それまでには、少なくともまだ3年の猶予がある。
でも、3年なんてあっという間だ。
「GID学会」(←学会名称の要変更)には、早めに対応策を練って欲しい。
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「障害」を「症」に 精神疾患の新名称公表

日本精神神経学会は28日、米国で昨年策定された精神疾患の新診断基準「DSM-5」で示された病名の日本語訳を公表した。子供や不安に関する疾患では「障害」を「症」に改めるなど、差別意識を生まないよう配慮した。

主な例では「注意欠陥・多動性障害(ADHD)」は「注意欠如・多動症」に、「性同一性障害」は「性別違和」に変更。「アスペルガー症候群」は単独の疾患としての区分はなくなり、「自閉スペクトラム症」に統合された。

医療現場では旧版の「DSM-4」などを診断に使い続ける医師もおり、当面は病名が混在する可能性もあるが、学会では「徐々に浸透していくことを期待している」としている。
「msn産経ニュース」2014.5.28 18:44
http://sankei.jp.msn.com/life/news/140528/bdy14052818440002-n1.htm
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コメント 7

たけ@明大生

はじめまして。
明治大学でジェンダー論の講義を履修している者です。

私も今晩の毎日新聞(http://mainichi.jp/select/news/20140529k0000e040241000c.html)で同様の記事を読んで、何事かと思ってふとこちらを覗いてみました。
診断書、法律(特例法など)その他で公式に疾病名として使用されているものが、そんな鶴の一声で改まるものではないでしょう…と不思議に思っていました。
なるほどそういうことだったんですね…

同新聞では「新指針での名称を用いるよう呼びかけていく」とありましたが、どういった経緯で学会がこのような指針を公表するに至ったのか、これから実際に医療界でどのように扱われていくのかとても気になります。

特例法を根拠に戸籍上の性別を変更したいと思っていても、疾病・障害呼ばわりされることで躊躇しているという話もよく聞きますし、まだまだ心が痛みます…
by たけ@明大生 (2014-05-30 00:11) 

山本 蘭

明治大学でジェンダー論の講義を履修している者さま

すみません。三橋さんのブログのコメントで申し訳ありません。
性同一性障害の当事者団体の代表をしている者です。

> 特例法を根拠に戸籍上の性別を変更したいと思っていても、疾病・障害呼ばわりされることで躊躇しているという話もよく聞きますし、

寡聞にもそんな話は聞いたことがないのですが、実際に何回も経験されたのでしょうか?
by 山本 蘭 (2014-05-30 11:02) 

たけ@明大生

山本蘭様

私とて寡聞なのでしょうが、私の面識ある方々の中には「障害というレッテルを貼られることが嫌」という声をくれる人が実際におりますのは事実です。

あくまでも寡聞であるうちに過ぎませんから、一般的にどうなのかは私もよくはわかりません。
先生のお話としてではなく、あくまで私が個人的に知っている人の話です。
by たけ@明大生 (2014-06-01 10:34) 

三橋順子

たけ@明大生さん、いらっしゃいま~せ。
>これから実際に医療界でどのように扱われていくのかとても気になります。
私は「ここは日本だから(中略)、アメリカにおける精神疾患名(病名)がどう変わろうが、基本的に日本精神神経学会が影響を受ける筋合いのものではない」と書きましたが、実は日本の精神神経学界は、かなりの程度、「アメリカの属国」なのです。
具体的にはアメリカ精神神経学会の診断基準(DSM)で診断している精神科医がかなり多いということです。
ですから、理屈からしたら「影響を受ける筋合いのものではない」のですが、実態的にはかなり大きな影響があるでしょう。
おそらく、今後、臨床の現場では「性同一性障害」から「性別違和」への移行が急速に進むでしょう。
社会的な認識レベルでの注目は、マスメディアがどの段階で「性同一性障害」から「性別違和」へ表記を変えるかです。
日本のメディアの「新しもの好き」を考えると、意外に早く「性同一性障害」という病名表記を見捨てるかもしれません。


by 三橋順子 (2014-06-02 02:20) 

三橋順子

山本蘭さん、いらっしゃいま~せ。
私が聞いている範囲でも、「疾病・障害」という認識に抵抗感がある当事者は、若い人たちを中心に日本でも徐々に増えているのは確かだと思います。
ただ、そういう人たちが本音を言いにくい雰囲気がありますし、どちらが多いかと言えば、「疾病・障害」という認識に乗る人の方がまだまだ多いと思います。

by 三橋順子 (2014-06-02 02:25) 

山本  蘭

たけさま、順子さま、お返事をありがとうございました。
私も、当然、「障害というレッテルを貼られることが嫌」という人や「疾病・障害」という認識に抵抗感がある当事者」がいることは存じています。

ただ、「戸籍上の性別を変更したいと思っていても、疾病・障害呼ばわりされることで躊躇している」という人がいるのかどうか、しかも「よく」いるのか、知らないんです。

ついでに言うと、疾病・障害でなぜいけないのかもよくわからない点です。実際に身体の「治療」が必要な以上、それは何らかの疾病であるはずですから。

by 山本 蘭 (2014-06-02 03:11) 

三橋順子

蘭さん、すいません。
「よくいる」にあまりこだわらないでください。
あくまでも、学びの途中の学生さんのコメントですから。
貴女がこだわって反論すべき言説はもっと他にあると思います。

以前から折に触れてお話ししているように、現代の若い人たちの性別移行に関する感覚は、私たちの世代よりもはるかに自由です。
性別を移行することを「疾病・障害」と考える人はかなり少数派で、「その人の自由・生き方の選択」と考える人が圧倒的です。
そうして感覚から、現代の性別移行をめぐる医療・法律に懐疑的な人がどんどん増えています。
それは、ある意味、現実の社会の仕組みを知らない楽観論かもしれません。
しかし、そうした柔軟な感性を批判したところで、性別違和をもつ人たちが生きやすくなるわけではないと思います。
批判すべきは、性別移行をしようとする人たちが普通に暮らすことを阻んでいる既存の社会的枠組みだと思います。

by 三橋順子 (2014-06-02 12:56) 

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