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SHIP にじいろキャビン開設10周年記念シンポジウム講演レジュメ [お仕事(講義・講演)]

SHIP にじいろキャビン開設10周年記念シンポジウム
「LGBTコミュニティ、この20年の歩み~司法とメディアの移り変わり」
                2017.09.18(慶応義塾大学・日吉)

メディアにおけるLGBTの扱い方を振り返る 
                 三橋 順子(みつはし じゅんこ)
            (明治大学非常勤講師・性社会文化史研究者)

はじめに ―L/G/B/Tとは?―
・ 性的な少数者の主な4つのカテゴリーの英語の頭文字を合成したもの。
 L レズビアン(Lesbian:女性同性愛者)
 G ゲイ(Gay:男性同性愛者)
 B バイセクシュアル(Bisexual:両性愛者)
 T トランスジェンダー(Transgender:性別越境者)

1 テレビの中のL/G/B/T -現状-
(1)ゲイ(G)
・ トランスジェンダーに比べて同性愛についての報道は少なかった。
  → 2015年以降「同性婚」問題で増加
・ ゲイ(男性同性愛者)が登場する場合、ほとんど過剰に“女らしい”ゲイ(「おネエ」)ばかりで、“男らしい”ゲイはほとんど登場しない。 
  → ゲイ世界の現実と著しく乖離 
  → ゲイのイメージの歪曲(「おネエ」性の強調)
・ 女装したゲイ、女性的なゲイでないと、テレビに出られない現状。
  → GのT擬態現象

(2) レズビアン(L)
・ レズビアン(女性同性愛)についてはほとんど報道されず、登場しなかった。 
  → 「佐良直美事件」(1980年)の呪縛
  → レズビアンの不可視化 
  → 2015年以降「同性婚」問題でやや増加
  → 現状、タレントとしては、ほとんど牧村朝子さん一択

※ 男性的なGや、Lのタレントさんがいないわけでない。
カミングアウトしないから、いないことになっているだけ。
  → なぜカミングアウトしないのか?
  → カミングアウトすると仕事がなくなるテレビ業界の体質

(3)バイセクシュアル(B)
・ カズレーザー、檀 蜜 etc → どこまで実態的?

(4) トランスジェンダー(T)
・ Trans-womanは人材豊富 カルーセル麻紀、はるな愛、中村中、佐藤かよ、KABAちゃん(新)
・ Trans-manは少ない
  → Trans-manの不可視化
  → テレビ登場は杉山文野さんほとんど一択

小結
・ テレビ・メディアとの関係において、Trans-womanが(マッチョな)G、L、B、Trans-manに比べて圧倒的に優勢。
・ それは、一時的なものではなく、歴史的に形成されたもの。
・ さらに言えば、日本文化の深層につながる文化的なもの → 双性原理

※ メディアにおける学術的なコメント需要
・ 当事者性を持ちつつ学術的なコメントをする人が少ない。
 L (不在)
 G 鈴木 賢(明治大学教授・法学)
   風間 孝(中央大学教授・社会学)
   谷口洋幸(高岡法科大学准教授・ジェンダー法学)
 B 青山 薫(神戸大学教授・社会学)
 T 仕方なく私
  → もっと増えてほしい

2 トランスジェンダーとメディアの歴史
(1) 1960年代後半~1980年代
・ テレビ放送開始(1953年)10数年後の1960年代後半には、もうトランスジェンダー的な人が「11PM」(日本テレビ系)などの深夜番組に出演していた。
  → カルーセル麻紀、青江のママ、光岡優(銀座ホステス)
  → 欧米諸国に比べて格段に早い
  → 倫理規定の制約で深夜枠しか出られなかったが(2000年頃まで?)
  → 「変わった人」「面白いことを言う人」ではあったが、必ずしも「笑いの対象」ではなかった

(2) 1980年代末
・ 1988年10月、お昼の人気番組「タモリの笑っていいとも」(フジテレビ系)のコーナーとして
「MrレディーMrタモキンの輪!」が設けられ、翌1989年9月にかけて全50回28名の「ニューハーフ」が登場し、1989年には「Mr.レディ」ブーム現象に。
  → 六本木のニューハーフ矢木沢まりが映画『Mr.レディ 夜明けのシンデレラ』(東宝、1990年1月)の準主演に抜擢。
  → 「女らしさ」「美しさ」への関心 
  → 「笑い」は主ではない

(3) 1990年代前半
・ 1992年10月、上岡龍太郎司会の「ムーブ」(TBSテレビ系)が「Mr.レディ50人が大集合」を放送。
・ 以後、1995年頃まで番組改編期を中心にニューハーフを出演者 とする特番(「ニューハーフ50人」「ニューハーフ100人」)が数多く放送される。
  → 大勢のニューハーフをスタジオに集めて、笑いをとれるようなことをやらせ、それをスタジオのゲストに批評させる形式
  → 「ナニワ(大阪)のニューハーフ」ブーム
    (ベティ春山、春野桃子、奥田菜津子、春菜愛など)
  → 社会的認知の向上
  → 笑いの対象としての「ニューハーフ」

【参考映像1】 「帰ってきたニューハーフ100人」(日本テレビ1996年3月?日放送)
・ 1990年代前半の番組改編期の特番として数多く放送されたニューハーフ番組の末期のもの。
・ 100人のニューハーフに笑いをとれるようなことをやらせ、スタジオのゲストに批評させる形式。
・ 抽出場面は、ニューハーフに料理を作らせ、それを幼稚園児に選ばせる「ニューハーフ100人 園児が選ぶ料理人No1は誰?」のシーン。
 (注目点) 
・ 料理を作ることが、無条件に「女らしさの象徴」になっている。
・ 若き日のはるな愛(当時は春菜愛)が登場。その扱われ方(ジェンダー的に→ 美醜の演出)。
・ 最後の批評場面での、加賀まりこ(女優)、加納典明(写真家)、飯島愛(タレント)のやり取り。

(4) 1990年代後半~2000年代前半
・ 1996年頃~2000年代、性別移行を病気として認識する「性同一性障害」概念に基づく番組が数多く放送される。
  → 性別移行の病理化(精神疾患化)にマス・メディアが協力
  → 医療・福祉の対象としての「かわいそうな性同一性障害者」イメージの流布
  → 世界の中で突出して病理認識が広がる

【参考映像2】「ニュース・ステーション 性を変えたい人」(テレビ朝日 1999年6月25日放送)
・ 「日本初」(←嘘)の男性から女性への性転換手術(現在では「性別適合手術」という)が行われた当日の報道番組の枠内での特集。
・ 「性同一性障害」という「病気」(精神疾患)の「患者」の「治療」(医療行為)としての性転換手術という構図とその正当性を、さまざまな画像イメージと当事者のインタビューで視聴者に印象付ける。
 (注目点)
・ 医療行為であることを印象付ける表象(病院、白衣の看護婦、注射)
・ 当事者(MtF)の「女らしさ」を表象する映像(ぬいぐるみ、化粧品、アクセサリー)
・ 当事者のGIDと非GIDを差異化する語り(差異化言説)。
  「私は趣味でやっているとかいうわけではありませんし」

(5) 2000年代後半
・ 2006年10月『おネエ★MANS!』(日本テレビ系)が放送開始。
  → 2006年~現在 「おネエ」番組の流行、バラエティ番組における「おネエ枠」
  → 全国放送でこれだけTが出演しているのは、おそらく世界で日本だけ?(タイも)
  → 女装のゲイ(G)とTrans-woman(T)の混乱
・ はるな愛の大ブレイク(2008年~)
  → 大企業のCMで一流男優とTrans-womanが共演、欧米ではあり得ない。

(6) 2010年代
・ 2015年~ トランスジェンダーを前提としない(「おネエ枠」でない)出演・起用
 (例) 能町みね子の相撲評論(NHK相撲中継、『週刊文春』のタモリ氏との対談)
     三橋順子の『AERA』のコメント(特集・LGBTブームという幻想)

(7) 将来的に
・ 最終的には、「特別枠」ではなく、個々のトランスジェンダーの能力が適切に評価されることが望ましい。
・ 現在はまだそこに至る途上。

まとめ
・ テレビ・メディアにおいて、50年以上の活動の末に、それなりの顕在化と社会的認知を達成し、「埋没化」の方向すら出てきているTrans-womanと、今なお顕在化が不十分なL、G、B、Trans-manとの間には、大きな状況の差がある(一周遅れ状態)。
・ L、G、B、Trans-manの顕在化と社会的認知の向上が今後の課題。

【参考文献】
三橋順子「テレビの中の性的マイノリティ」
 (『週刊金曜日』2009年6月12日号 特集「考える メディア」)
三橋順子「トランスジェンダー文化の原理 ―双性のシャーマンの末裔たちへ―」
 (『ユリイカ』2015年9月号 青土社 2015年9月)
三橋順子「日本トランスジェンダー小史 ―先達たちの歩みをたどる―」
 (『現代思想』2015年10月号 青土社 2015年10月)
三橋順子「日本におけるレズビアンの隠蔽とその影響」
 (『ジェンダー研究 /教育の深化のためにー早稲田からの発信―』彩流社、2016年)
三橋順子「マツコ・デラックスを現代の『最強神』と呼ぶべき、深淵なる理由―祭礼と女装の歴史にみる『双性原理』―」
 (「現代ビジネス」2017年5月23日)http://gendai.ismedia.jp/articles/-/51743


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