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セクシュアリティ研究の「現実」 [性社会史研究(一般)]

3月7日(土)
某研究集会での話。
報告者が、静岡県御殿場にあったアメリカ進駐軍兵士相手の「慰安所」でのこととして「3時間で(多い時は)25人を相手」にしたという事例を紹介した。

それに対し、会場から「ありえない!そんなのはセックスワークじゃない。暴力です」みたいな意見が出た。

たしかに慰安婦が素人出身だったら、そうだろう。
下手をしたら死んでしまう。
でも、玄人、しかも本職の娼婦出身だったらどうだろうか?
もちろん、経験豊富で技量に長けた娼婦の場合だが。

女性に接する機会がなく、禁欲期間が長かった前線上がりの兵士の場合、交接時間は極めて短くなる。
つまり射精に至る時間がとても短い。
俗に「三こすり半」と言うが、たぶんそのパターンだろう。
時間にすれば分単位ではなく秒単位だと思う。
しかも5秒とか10秒とか、そういうレベルだ。
十分な挿入に至る前に射精してしまうことすら、しばしばあるはずだ。

なかには、もう少し長くもつ兵士もいるだろうが、それでも本職の娼婦が本気で技量を発揮すれば、せいぜいもって1分だと思う。

ちょっとしごいて、サック(コンドーム)を装着して、股間に誘導して・・・という準備時間を入れても1人5分で済む。
単純計算で1時間で12人、3時間で36人。
つまり「3時間で(多い時は)25人」は「ありえない!」数字ではない。
もちろん、たいへんな重労働であることには変わりないが。

実は、資料をちゃんと読み込んでいる報告者はそこらへんのこと気づかれているようで「プロフェッショナル(の娼婦)の技量はあなどってはいけないのではないか」と発言していた。
まさにその通りで、フォローするコメントをするかどうか迷った。
しかし、「ありえない!」という発言には、かなり感情が含まれていた。
これでは理性的に反論しても、通じないだろうと思い、私は発言を控えた。

「慰安所」のような特殊な、かつ極限的なセクシュアリティの場での、男性の性行動については、資料に乏しい。
ただ、まったくないわけではない。
たとえば、自らも南方の戦地(ラバウル)の「慰安所」の体験者である水木しげる先生の『総員玉砕せよ!』という作品に、こんなシーンが描かれている。
水木しげる『総員玉砕せよ!』.jpg
慰安所の前に並んで順番待ちいる兵士が「一人30秒だぞ」と言うセリフがある。
秒単位で、ことが終わるというのは、私の勝手な推測ではないのだ。

慰安婦の方だって、行列の長さを目にすれば、これは大変だと思う。
兵士のするがままにされていては、身が持たないことは直感的にわかる。
だから、技量を持っている慰安婦は、本気で発揮する。
それが身を守る唯一の手段だからだ。
技量をもった慰安婦が本気になったら、禁欲が長かった兵士など、文字通り「秒殺」だ。

ただ、そうした「現実」は、「観念」や「理論」を重視するフェミニストの女性研究者にはイメージできない。
まして、実際の性交渉の経験に乏しく(あるいは皆無に近い)「まじめな」女性だったらなおさらだろう。
さらに、そこに性行為を嫌悪する感情が重なると、もう理性的な学問とは言えなくなる。

研究会の質疑応答は、この後、報告者の「慰安所の性」の「暴力性」に対する「考えが甘い」という批判に傾いていく。

セクシュアリティがテーマの研究報告になると、女性研究者の実証的な歴史研究ですら、会場がアウェーの雰囲気になってしまう現状、ほんとうになんとかならないものかと思う。

性産業に従事する女性をすべて人身売買、性的虐待の犠牲者化しないと承知しない雰囲気がそこにはある。
もちろん、人身売買、性的虐待の犠牲になった女性が多いことは言うまでもないが、そうでない女性はまったくいなかったのか? あるいは、そうした過酷な環境の中でも、自らの力を磨いて生きぬいた女性はいたはずなのに。
そういう女性たちの「主体」を資料から浮かび上がらせ正当に評価することは、女性史がすべき仕事だと私は思うのだが・・・。
そして、そうした仕事は、現代の性産業に従事するセックスワーカーたちのプライド(自尊感情)を高めることにも通じる価値ある仕事だと思う。

ここまで書いて、ふと気づいた。
なぜ、井上章一さんの「関西性慾研究会」に女性セクシュアリティ研究者が集まるのか。
女性研究者が実証的なセクシュアリティ研究をすることに対する、観念的・教条的なフェミニストからのアウェーな視線(抑圧)がほとんどないからだ。
澁谷知美さんのような筋金入りのフェミニストがいるにもかかわらず。

自由に、学問的にセクシュアリティ研究ができる場が首都圏にも欲しいと心から思う。


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Gen

渋谷さんってフェミ子さんだったんですね。
わかめ酒の表現が真面目でおかしくて好きでしたけど。

私は先生の実際の経験からのご意見が好きです。
私も秒殺って感じの短さは、何度か色んな文章で見てますし、お偉い先生方と違って男は知ってるから、あり得ると思います。
小説じゃあるまいし、毎回きちんと本人が望んだように長く持続する男なんていないですよ・・・。
時には「技術的不具合」ぐらいあるし、慣れなければ「不首尾」に終わるのも当たり前。
そんなのだいたいはみんな、男と親しくなったことがある人ならば知ってると思いますよ。
あんまり色んな事を知らないで色々エラそうにいうのってどうかなって思いますよね。
男の生理も知らないくせに性産業の問題を語るのは、学者として誠実な態度とは言えませんよね。
そこまで非難したいなら腹くくって身体で男を「もう全部分かった」と思うまで試してからにしてほしいものです。
その上で性産業の問題を語るなら、私はその人を尊敬します。
例えエイズか梅毒で亡くなったとしても。
実際鼻がもげて落ちそうになっていた娼婦の話を聞きに行っていた学者さんも戦前はいましたが、普通に長生きされて畳の上で亡くなりましたよ。
そういうの知ってる身には甘いなぁ・・・・。

彼女たちも実地で試せば、自分たちの言動が一般女性になぜ嫌われるのか、同じ女とは思えないとまで言われるのかが分かるはずです。
彼女たちは男とセックスすること自体を毛嫌いしてる。
でも子持ち主婦はほとんどが自分の子を夫とのセックスの結果産んでます。
「それが汚らわしいってわけ?!うちの子も汚らわしいの?冗談じゃないわよ。男と寝て何が悪いのよ?!みんなやってきたことじゃない!あんただってそうやって生まれてきたくせに、何よ!」
と感じさせるから、腹が立つのです。
本能的に分かるのですね。
彼女たちに賛成するのは同じようにセックスを嫌悪する人たちではないでしょうか?
既婚の友人はあの人たちなんにも分かってないと言います。
私もそう思います。
ていうか、不幸そうに見えます。
不幸だから、男に復習するためにやってるのかな、とさえ思える時あります。
先生の方が何十倍も幸せそうです。
本能から逃げてる人が立派な仕事できるとは思えないなぁ・・・。
だってちゃんとものが見えてないもの・・・。

by Gen (2015-03-09 01:43) 

三橋順子

Genさん、いらっしゃいま~せ。
生のセクシュアリティについて知らない、というのは、まあ仕方がないことだと思います。
でも、ちゃんと資料を読み込んで、話を聞いて、学問的想像力を働かせれば、それなりに優れた研究はできます。
なんでも実体験しなければ、研究できないという、実体験主義は私はとりません。
ただ、セクシュアリティについて嫌悪感がある人が、学問的な場で嫌悪感に基づいた発言をするのは勘弁してほしいと、この研究会で改めて思いました。

by 三橋順子 (2015-03-16 01:21) 

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