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『朝日新聞』「12歳、性同一性障害明かし進学」の記事について [現代の性(性別越境・性別移行)]

3月23日(日)
「良い時代になったもんだなぁ」と思うと同時に、微妙な違和感をもつ記事。
まず、「両親から同級生への手紙」に2箇所ある「障害」という概念の使い方。
「性同一性障害(Gender Identeity Disorder)」の「障害(Disorder)」は、身体障害(Physical disability)」などの「障害(Disability)」とは違うということ、理解しているのだろうか?

それと、近い将来(3~5年スパン)、つまり「あおいさん」が高校に在学しているころには、「性同一性障害(Gender Identeity Disorder)」という疾患名はなくなり、「障害」ではなくなるわけで、「障害がある」→「受け入れてほしい」という論理は使えなくなる。
それなら、最初から「この子はそういう子なんです(個性)、よろしくお願いします」で行った方がいいのではないかと思ってしまう。
でも、それは、当事者の両親の考え方の問題だから、他人がとやかく言う問題ではないと思う。

もっと、本質的な違和感は、性別(ジェンダー)の移行という個人的な問題を新聞で報じてしまうこと。
元記事は、ローカル(岐阜)版らしい。
少なくとも東京の『朝日新聞』には載ってなかった。
しかし、デジタル版に載ったことで、実質、全国的な記事になった。
しかも、かなり容姿がわかる写真付きで。
12歳の少年が少女にジェンダー移行することを、そこまで大きく社会化する必要があるのだろうか?
「専門家」が「学校全体での対応が重要」とコメントしているが、学校全体で対応することと、学校全体に周知することとは同じではない。
当人の将来を考えた場合、できるだけ周知範囲を限定するという配慮も必要なのではないか。

思春期以前の性別違和感が、必ず青年期まで継続するとは限らない。
青年期までの間に性別違和感が緩和するケースは少なくない。
もし、そうなった場合(つまり、ジェンダーを男性に戻す場合)には、周知範囲が狭い方が対応しやすい。
少なくとも「引っ込みがつかない状態」を周囲の大人が作ってしまうことには、私は危惧を覚える。

「専門家」は、性別違和感をもっている子どもの性別移行の問題を社会的に広く知らせることで、「早期発見」→「早期治療」のシステム形成を推進したいと考えている。
こういう記事を読むと、1人の子どもの性別移行が、そうした大人の思惑のための広報材料、悪く言えば「人身御供」に使われているような気がどうしてもしてしまう。

ちなみに。私の「子どもの性別違和」についての姿勢(基本的な考え方)は、周囲の人が無視せずに受け止めて見守ることが大切だが、大人の考えで性別を方向付けしてしまうことは避けるべきで、性別の有り様は、あくまで本人が成長した後で自分で決めるべきことだと思う。

さらにこの記事で問題なのは、記事の見出しに「セーラー服」という言葉を使ってしまったことだ。
それによって、ネット上の注目度が大きく上がってしまった。
つまり、「セーラー服(制服)少女好き」の男性たちの性的な視線の対象になってしまった。
すでに、画像がネット上で1人歩きしている。
それは、果たして当人が望んだことなのだろうか。
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春から私はセーラー服 12歳、性同一性障害明かし進学
(画像)
卒業式で着るブレザーとスカートを着て、鏡で確認するあおいさん。赤のチェックのスカートがお気に入りだ=22日、岐阜市

この春、岐阜市に住む12歳の小学6年生が門出を迎える。心は女性だが、体は男性という性同一性障害
(GID)。中学校への進学を機に、自分らしく生きたい――。不安な気持ちを抱えながらも、両親や学校、友だちに支えられ、大きな一歩を踏み出そうとしている。これからはこう呼んでほしいと、「あおい」という名前を自分でつけた。4月から、セーラー服に袖を通す。
「パパ、見て。似合うでしょ」
22日、岐阜市の自宅の居間で、あおいさん(12)はこの日買った黒いブレザーと赤いスカートを着て、父(46)と母(49)に披露した。25日の卒業式に着る洋服。「卒業式はやっぱり黒と赤でしょ」と目を輝かせた。
幼いころから、ピンク色やリボンのついた服がお気に入り。女の子と遊ぶことが多かった。
ニュースなどで性同一性障害(GID)を知っていた両親は「すんなりと受けとめられた」というが、いじめられるのではと、女の子のような格好で通学することには慎重だった。
高学年で転居すると、あおいさんは髪を伸ばし、キュロットなど女の子のような服装に。昨春、「中学校はセーラー服で通いたい」と両親に打ち明けた。
誰も知らない中学校で新たなスタートを切った方がいいのではないか。でも、話せば助けてくれる人も出てくるかもしれない。両親は悩んだ末、地元の中学校へ進ませることを決めた。小学校に、あおいさんの思いも伝えた。
学校や岐阜市教育委員会にとって初めてのケースだった。市教委や進学先の教員らを交えた会議を1年間続けた。あおいさんは昨年9月にGIDと診断され、病院とも情報を共有した。
あおいさんの同級生にどう伝えるか。それが課題だった。
学校側は昨年12月に2回、「人間と性」教育研究協議会の中村一恵さん(62)を講師に招いた。中村さんは言った。性別は男と女だけで切り分けられず、人の数だけ性がある、と。
卒業を前に、両親は同級生に向けて手紙を書いた。あおいさんがGIDだということ、本人の思いを最大限応援したいこと、個性の一つとして障害を見てほしいことなどをA4判2枚につづった。
今月10日の授業。6年生の担任がそれぞれの教室でこの手紙を読み上げた。同級生は感想を書いた。
「生き方を応援したい」「バカにされたり笑われたりしてたら守りたい」。陰で悪口を言っていたことを告白し「あんなことを言わなければ良かったし、ばかげている。これからは絶対しない」という子もいた。
校長(58)は「あおいさんが壁にぶつかる時は必ずある。周りの子たちは、そのときに何らかのアクションを起こせるようになってほしい」と願う。
中学への進学は「すっごい心配」とあおいさん。同級生だけでなく、ほかの学年の生徒がどうみるか。いじめられないか。ただ、両親の手紙を読んでもらい、同級生の反応も知り、「ほんのちょこーーっとだけ」安心したという。
「あおい」という名前は、「セーラー服を着るなら、いままでの名前はヤダ」と自分で考えた。テレビで見た女優の姿や、言葉の響きにひかれた。
両親の手紙で初めて明かした。あくまで通称で、戸籍名は変わらない。卒業証書に書かれた名前はそのままでも、式では「あおい」と呼んでもらい、証書を受け取る予定だ。
     ◇
〈両親から同級生への手紙(要約)〉
同学年の皆さんへ
私たちの子は性同一性障害を持って生まれ、生きてきました。親として、本人がしたいことを、最大限応援していこうと思います。
人間は誰もが個性を持っています。背が高い、低い。運動が得意、苦手。そういう個性と同じように、障害のことを見てもらえたらと思います。
名前も男の子らしい名前をやめて、「あおい」という名を名乗っていきたいと言っています。私たちは生まれてきたときに名付けた呼び方に今も愛着がありますが、本人が決めたなら認めてあげたいと思っています。これからは「あおい」と呼んでもらえませんか。
あおいはきっと、障害のことで傷つき、壁にぶち当たるときが何度もあると思います。そのときに支えになるのが、今の皆さんの姿だと思います。くじけそうになったとき、きっと皆さんのことを思い出すと思うんです。「一緒に学んで、自分のことを自然に分かってくれた人もたくさんいるんだ」。そう思って、もう一度立ち直って歩み始めてくれると信じています。

専門家「学校全体での対応が重要」
GID学会理事長で岡山大大学院の中塚幹也教授によると、GIDは数千人に1人の割合でいるとされる。岡山大が受診者に実施した調査では、性別に違和感を抱いた時期は小学校入学前が約6割、中学入学前が約8割だった。
中塚教授は「成長が進むほど、心と体が一致せず、苦しむようになる。まずは医療機関につなぎ、本人がどうしたいかを考えることが大切」と話す。
文部科学省が、2010年にGIDの子どもに配慮するよう通知を出し、教育現場での理解は徐々に進んでいるという。中塚教授は「チームをつくって学校全体で対応することが大切。ほかの子どもたちに打ち明ける場合は、事前に性についての正確な知識を伝えておく必要がある」と話す。
岐阜経済大(岐阜県大垣市)は10年度から、健康診断の証明書に性別を記載することをやめた。GIDの学生が就職活動で不利にならないようにするためだ。大学側は「性別をめぐる社会状況は変化している。当事者の気持ちを尊重した」と説明する。(塩入彩)
『朝日新聞』2014年3月23日03時49分
http://digital.asahi.com/articles/ASG3Q6SZ8G3QOIPE017.html?_requesturl=articles/ASG3Q6SZ8G3QOIPE017.html&iref=comkiji_txt_end_s_kjid_ASG3Q6SZ8G3QOIPE017

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コメント 5

ばたふらい

全体的には、僕も、いいことだと思います。
今までの様に、反対の性の服装をするなんて、とんでもない!という風潮でなくなってきたことは、素直に歓迎します。

ただ、順子さんが仰るように、思春期以前の性別違和感が成人後もそのまま続くのか?
後で、やっぱり男に戻りたいとならないのか?
と言う点で、こんなに大ごとにしていいか、疑問を持ちました。

僕は、ゲイを自認して、ン十年生きていますが、女系家族で育ったので、
子供の頃は、自分だけ1人男である事が不本意で、「女になるか?」と聞かれたら、もしかしたら、首を縦に振っていたかもしれません。
しかし、今は、ゲイの男性として生きてきて、後悔はないですし、今後、女性になろうと言う気は全くありません。

僕の友人のゲイの中にも、「子供の頃は女の子になりたかった」と言う人がいます。
が、その人も、ずっと男性として暮らしていて、女性になったり、女装したりする気は、ないようです。

楽しんごも、若い頃にニューハーフクラブで女装していたが、あるきっかけで、すっぱりと女装を止め、今後もしないとテレビで言ってましたよね。

当人の性別違和感を尊重するのは賛成ですが、子供については、慎重な配慮が欲しいと願います。
by ばたふらい (2014-03-25 10:27) 

月村朝子

ご両親の「障害のことで傷つき、壁にぶち当たるときが何度もあると思う」という言葉を読み、現時点でしっかり「障害」というくくりにされてしまっていることを感じて、少し胸がいたみました。

私も十代までは自分の性別に違和感を感じていましたが、今思えばそれは「性別」だけというよりは、自分という存在をどうとらえていいのかが解らなくて、混乱していた部分も多いと思います。
その後、色々な人に出会ったり、自分と向き合ったりしながら、受け入れるようになってきました。

これからのことは、誰にも、それこそ本人にも解らないと思うので・・・
もっとさりげない、柔らかい対応が当たり前になる社会になってほしいなあと感じました。
by 月村朝子 (2014-03-25 23:39) 

Gen

こういう問題って難しいですよね。
最近、中学生や高校生で「自分は性同一性障害ではないか?」と悩む人が多いようです。
でもよく話を聞いてみると、「女(男)のが嫌」とか「女(男)の子の服は好きじゃない」とかでも、それを疑っているようで・・・・。
あと親の虐待や周囲とうまくいかないなどの別の要因からくる「生きづらさ」を解消するためにそう思い込んでしまってたり・・・・。
性同一性障害が当てはまれば生きやすくなる、と思い込んでるんですね。
ほんとはそんなの、なんの根拠もなくて、治療してからやるんじゃなかったって後悔する人だっているのに・・・・。
すぐ治療できなきゃ意味がない、とか、切羽詰まってるのは分かるんですが、まだカウンセリングすら受けてなくて、15歳だったりすると、焦ってはダメ、きちんとご両親に話してカウンセリング受けないと、と言っても聞き入れる様子もない・・・。
同じことを何回も色んな人に訪ねるんです、回り道しないで済む楽な道があるって信じたいみたいに。
でも大人はみんな状況知ってるから、同じ答えが返ってくるばかり。
だんだん、新聞やテレビで色々取り上げすぎなんじゃないかと思えてきました。
弊害の方が大きいのではないかと。

我々の世代だと、そういう知識が全くなかったので、「疑うこともできなかった」です。
でも人生半分以上過ごしてから気付くと、今度は「長い事生きてきて自分に自信が持てる部分も少なからずあり、そのため何とか向き合って戦えるだけの準備が整っていた」という利点もあります。
気づいても気付かなくても、「現代の医療が私を本物の男にできるわけでない」以上、治療は無意味ですから、自分にとっては医療より過去の経験で培ったものが大きいです。
医療で囲い込んだって、その結果は本人が全て引き受けるものですからね。
周りが騒ぎ過ぎて一過性のものだったら、その子はどうなってしまうのか、とても気がかりです・・・。

治療しないなんて本当じゃない、と言う人もいますが、その人の思う幸せと自分の望む幸せが合致してない以上、そう言われてもねぇという感じです。
親が病気で老いてきて一人暮らしできなくなりつつある、という時期に、言えば必ず病状が悪化すると知りながら、
「ほんとは男だったから、これからは男になるからそのつもりで。」
と言って親を捨て、兄弟に負担を負わせて男の身体手に入れてハッピー、というのは、何かが間違っているとしか私には思えません。
男らしさとは外見だけでなく、行動面で表現できるものでもあるはずです。
身体さえ男になりさえすれば男だ、と思ってるなら、それは違うと思っています。
内面の男は何かを成し遂げる事、生き方などで表現できるはずです。
ちなみにおかしな表現ですが、先生もカッコいいな、と思っています。
男とか女とか、どうでもいいじゃん、と先生を見ていると思えてきます。
これからもがんばってくださいね。
最近、分からず屋や能天気ばかり見てきたので愚痴が多くなってしまいました・・・・。
長々と失礼いたししました・・・・。

by Gen (2014-03-26 01:27) 

匿名希望

去年のFTMの男性夫を父と認める最高裁判決に対するご意見も、、今回の件に対するご意見も、三橋さんのご意見に頷くわたしです。

中学生になる時に違和感が強くなるのは、制服着用の原因が大きいと思います。制服がなければ、違和感のハードルがだいぶ低くなると思うのですが。


by 匿名希望 (2014-03-26 08:10) 

みれい

中学生や高校生のころ制服に苦しんだわたしも近年の対応の変化に感慨を覚えます。

ただ、10代が抱えている悩みというのは性別に関する悩みだけではないので、
悩みを相談したり・問題を抱え込まないようになっていくことを望みます。
三橋さんが個性という言葉を使われているように、ひとりひとり事情は違うのですから。

発達障害の分野では診断書や障害者手帳がないと対応しきれない部分がある
というところまでいっていて進んでいるともいえるのですが、
性別違和(感)の分野ではどうでしょうか?。
手術までは必要ないからといって配慮や支援も必要ないとは言えないと思います。
by みれい (2014-04-01 22:39) 

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