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ブラジル映画「私はヴァレンティナ(原題:VALENTINA)」(2020年) [現代の性(性別越境・性別移行)]

2月19日(土)

ブラジル映画「私はヴァレンティナ(原題:VALENTINA)」(2020年)は、現代ブラジルに生きる17歳のTrans-womanヴァレンティナの日常と困難を描いた作品。
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両親の離別にともない、ヴァレンティナは看護師である母親マルシアと一緒に、小さな街に引っ越してくる。そこで、出生届の名である男性名ラウルではなく、通称名&女性名のヴァレンティナで高校に通おうとする。ブラジルではトランスジェンダーの生徒が通称名で通学することが法律で保障されているので、校長先生(らしき人)は、「法律に従って対処します」と受け入れてくれる。しかし、それには両親の署名が必要だという。
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正式の手続きが終わるまでヴァレンティナは、(出席をとらない)補習学級に通う。ヴァレンティナは化学・数学などが得意で、学習能力的には補習に通う必要はないのだが、そこで知り合った、あまり成績の良くない生徒、妊娠中のアマンダやゲイのジュリオと仲良くなる。
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ハッキング能力があるアマンダの手助けで父親を見つけ出し、ヴァレンティナの学校生活は順調に始まるように思えたのだが・・・。

ストーリーには耳目を驚かすような大きな事件はなく、ヴァレンティナと周囲の人々の生活がたんたんと、まるでドキュメンタリー・フィルムのように描かれる。ヴァレンティナを演じたのは、自身もTrans-womanであり、YouTuber・インスタグラマーとしても活躍中のティエッサ・ウィンバック(Thiessa Woinbackk)で、演技とは思えないほどのリアリティを感じる。
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それだけにヴァレンティナの生活をじわじわと抑圧し、「不健全」な存在と決めつけ就学不能に追い込もうとする地域社会の人の「健全な」悪意が怖い。

ブラジルは、2018年に、医師の精神疾患の診断や性別適合手術なしの自己申告で公的な名前や性別の変更を認める法律が施行され、学校も含め、トランスジェンダーが望みの性別で社会生活を送ることが認められている。
にもかかわらず、「学校に通いたいだけ」のTrans-womanに、これだけの困難がともなうという現実。トランスジェンダーの尊厳と人権の擁護という点で、日本よりはるかに先行し、西欧並みに進んでいる法制度に、社会的な受容が伴なっていない。

就学の継続は、若いトランスジェンダーにとって、最大の課題である。就学が継続できず学歴が不足すると、それがそのまま就労の困難につながってしまうからだ。そしてセックスワークなどのハイリスクな職業に就かざるをえず、命を落とすトランスジェンダーも少なくない。映画の最後に字幕で流れる「ブラジルのトランスジェンダーの中途退学率82%」「平均寿命は35歳」という情報が、過酷な現実を物語っている。

パンフレットの解説は、モデルのイシヅカユウさん、Proud Futures共同代表の小野アンリさん、中京大学の風間孝教授。
イシヅカさんが言及しているブラジルの田舎街の生活のリアル、私も興味深かった。
風間教授が指摘する、ブラジルだけでなく日本でも「性別一致主義にもとづく暴力とトランスジェンダーを『不健全・不自然』とするまなざし」が台頭していることは、今後、十分に警戒しなければならない。

「私はヴァレンティナ」は、4月1日より東京・新宿武蔵野館、ヒューマントラストシネマ渋谷、池袋シネマ・ロサほか全国で順次公開される。

トランスジェンダーに関心がある方だけでなく、人権・教育に関心がある大勢の方たちに観ていただきたい。
https://hark3.com/valentina/#modal

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