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同性愛者の社会的「無化」を許してはいけない [現代の性(同性愛・L/G/B/T)]

5月17日(土)
純粋に税金の使い方論だったら、そういう考えもあるかもしれない。
費用対効果という点で、あるいは他の施策との優先順位という点で、議論の余地があるという意見は、必ずしも暴論ではない。
むしろ、これだけの税金を長年、予防・啓発活動に投入し続けているのに、なぜ同性愛者のHIV感染がいっこうに減らないのか?という問いかけは、あってしかるべきだと思う。
ただし、効果が無いから税金の投入を止めるのではなく、もっと効果的な方策を考えるべきで、そのためにお金を使うべだと私は思うが。

あるいは、(同性愛は「嗜好(Preference)」ではなく「指向(Orientation)」である)に行政が関わるべきではない、という考え方もひとつの見識だろう。
私は、行政は個人の性的指向に介入すべきではないが、個人の性的指向から生じる社会的問題には対処すべきだと思う。
同性愛者のHIV感染問題はまさにその典型である。

また、純粋に疫学的な観点で考えれれば、感染率が高く、感染者最も多いハイリスク・グループ(男性同性愛者)への対処を優先するのは当然のことだ。
ハイリスク・グループを無視した防疫は成り立たない。

しかし、この兵庫県会議員の発言の問題点はそれらの論点にあるのではない。
発言の根底にある差別意識だ。
『神戸新聞』は報じていないが、『朝日新聞』によると、この議員は「(同性愛、もしくは同性愛者を)社会的に認めるべきじゃない」と発言しているという。
「社会的に認めるべきではない」というのは、いったいどういう意味なのだろう。
その昔のユダヤ―キリスト教社会のように「殺してしまえ」ということなのか? あるいは19世紀末から20世紀半ばの精神医学のように「精神病だから閉鎖病棟に閉じ込めておけ」ということなのか?
この議員の思想的・宗教的背景はわからないが、たぶんキリスト教の聖書原理主義者でも、クラフト・エーピング(1840~1902)の門下生でもないだろう。
ということは、「社会的に認めるべきではない」ということは、「ホモみたいな連中はいないことにしておけ」ということだろう。
つまり、社会的な「無化」だ。

社会的「無化」は、数ある差別の手法の中でも、いちばん質が悪いと思う。
なぜなら、「いない」のだから、当事者性を持って差別に反対することもできなくなってしまう。
「いない奴」の発言は、誰の耳にも届かない。
だから、いったん「いない」ことにされてしまうと、「いる」ことを認めさせるだけでも、たいへんな力が必要になってくる。

しかし、現代の日本では、少なくとも同性愛者は「いる」ことになっている。
法務省の「主な人権課題」には「(12)性的指向」の項目があり、同性愛者・両性愛者に対する「性的指向を理由とする差別的取扱い」は人権課題であることがはっきり記されている。
http://www.moj.go.jp/JINKEN/kadai.html
また、厚生労働省の「後天性免疫不全症候群に関する特定感染症予防指針」(2012年)では、 個別施策層として「性的指向の側面で配慮の必要なMSM(男性間で性行為を行う者をいう)」を明記している。
http://www.mhlw.go.jp/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/kenkou/kekkaku-kansenshou/aids/dl/yoboushishin.pdf
「同性愛者」が「いる」ことになるまでには、先人の多大な努力があった。
「同性愛者」が「いない」ことにされる時代に逆戻りさせては、絶対にいけない。
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「同性愛者のHIV指導必要ない」委員会で井上県議
男性同士の性行為によるエイズウイルス(HIV)感染などの予防に向けた兵庫県の啓発活動について、自民党の井上英之県議(44)=加古川市選出=が16日、県議会常任委員会の席上、「行政が率先してホモ(セクシュアル)の指導をする必要があるのか」などと発言した。委員会終了後、他党の議員らから「差別的で、見識がなさ過ぎる」と批判の声も出ており、波紋を広げそうだ。(岡西篤志)

県によると、2013年に新たに届け出があった県内のHIV感染者は32人で、エイズ患者は21人。うち女性は1人ずつで、ほぼ男性が占めた。また、感染者32人のうち21人が同性間の性行為によるものだったという。
県は民間団体などと連携し、定期検査の受診を促すよう対策を続けている。この日の常任委員会で、井上県議は県の取り組みについて「この人たちは、啓発しても、好きでやっている話だから放っておいてくれ、という世界だ」などと述べた。
井上県議は神戸新聞社の取材に「がん検診の受診率向上といった重要課題がある中、ハイリスクを認識した上で(性行為を)している少人数の啓発に税金を使うのはおかしい」と話した。
『神戸新聞』2014/5/17 07:15
http://www.kobe-np.co.jp/news/shakai/201405/0006966351.shtml
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「同性愛者へのHIV啓発、必要か」兵庫県議が発言
16日に開かれた兵庫県議会の員会で自民党所属の井上英之県議(44)が男性同士の性行為によるHIV(エイズウィルス)感染防止に向けた県の啓発活動を疑問視する発言をしていたことが県などの取材で分かった。
井上県議は 「社会的に認めるべきじゃないといいますか、行政がホモの指導をする必要があるのか」などと発言したという。井上県議は取材に対し、発言したことを認めた上で、「偏ったリスクを承知でやっている人たちのこと。他にも重要課題がある中、行政が率先して対応する必要はない」と述べた。発言の撤回などは考えていないという。
『朝日新聞』2014年5月17日 11時26分
http://www.asahi.com/articles/ASG5K3DV7G5KPIHB004.html?iref=comtop_list_nat_n01

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C Sato

ご指摘のポイントが最大の問題点と存じます。

気になる点は、出生率向上の努力目標が提示されたこととの関連です。


又、今後のなりゆき、がきになります。
当然、議員辞職すべき、発言だと思うのですが、

安倍政権になってから、
閣僚、NHK関連など、公職についた人物の、非常識発言が、個人の見解だから、個人の思想の自由だから、といった、態度で、責任問題にされなくなりました。

一方で、おいしんぼ、は、休載になるらしい。
私も、ふざけた内容、問題のある内容、と思っていますが、

公職者は辞任しないのに、政権の方針と相対するまんがが休載になってしまう、

今の日本は、大変な事態に陥っているのだと思います。



by C Sato (2014-05-18 08:59) 

三橋順子

C Satoさん、いらっしゃいま~せ。
>当然、議員辞職すべき、発言だと思うのですが、
私もそう思いますが、おそらく井上議員の所には「よく言った」「その通りだ」という激励のメールがたくさん届いているのではないかと思います。
それが現在の日本社会の現実です。

「美味しんぼ」の休載の件ですが、あの漫画はこれまでもしばしば休載してきたので、予定通りの休載なら、あまり重大に考える必要はないでしょう。
ただ、このままずっと休載ということになると、話は別ですが。

by 三橋順子 (2014-05-18 14:40) 

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