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平城京、水銀汚染痕なし 大仏建立で中毒説、退ける [お仕事(古代史)]

5月29日(水)
古代における塗金は、金や銀を水銀に溶かして銅や銅合金に塗り、その後で熱を加えて水銀を蒸発させ、金や銀を定着させる「水銀アマルガム」法だった。
奈良時代中期、東大寺の大仏造営、とりわけ塗金作業において、大量の水銀が使用され、それが環境を汚染し、水銀中毒が広がり、延暦3年(784)平城棄都=長岡遷都につながったという説は、杉山二郎『大仏以後』(1987年、学生社)が提唱して以来、けっこうもっともらしい説として、一部の人に信奉されていた。
私は、平城棄都=長岡遷都の理由を政治と仏教の分離に求める論文(「早良親王と長岡遷都」)を書いているので、水銀環境汚染説はとらなかったが、若干は影響があったかな?程度には思っていた。

今回の調査結果は、水銀による環境汚染は定性的にはあったものの、定量的にはほとんど問題にならない程度だったことを明らかにしたもので、これで水銀環境汚染説はほぼ成り立たなくなった。

むしろ、環境汚染としては鉛の方が重大だった可能性がある。
鉛汚染についての調査例がさらに増えることを期待したい。
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平城京、水銀汚染痕なし 大仏建立で中毒説、退ける   

『朝日新聞』2013年05月29日 東京 夕刊 環境

8世紀に都がおかれた平城京(奈良市)が74年間という短命で終わったのは、大仏建立時に使われた水銀による汚染のため? 近年広まっているこの学説について、東京大などが当時の土壌を調べたところ、水銀汚染は見つからなかった。23日、千葉市で開かれた日本地球惑星科学連合大会で発表された。

平城京には710年から都がおかれ、聖武天皇による大仏建立など仏教文化が花開いたが、784年には長岡京(京都府)に遷都した。大仏建立時に使った金めっきに大量の水銀が含まれていたことから、水銀中毒が広かったためという指摘があった。

東大大気海洋研究所の川幡穂高教授が奈良文化財研究所などの協力を得て、平城京のあった奈良市内や周辺4カ所の当時の土壌を採取し分析した。すると水銀については、大仏建造時に数倍増えているものの、現代の環境水準(15ppm以下)よりい大幅に低い0.25ppm前後にとどまっていることがわかった。
 
一方、8世紀中頃の土壌から最大で1200ppmの鉛が見つかった。これは現代の環境基準(150ppm)の8倍にあたる。平城宮から10km離れた地点でも高濃度の鉛が見つかっており、汚染は周辺にも及んでいたと見られる。これらの鉛は同位体の分析の結果、大仏に使われた銅と同じ長登(ながのぼり)鉱山(山口県)で採掘されたものとほぼ断定できた。

川幡さんは「水銀汚染で都を放棄したという説は退けられる。鉛汚染は、詳細な調査が必要だが、健康に影響のないレベル。白色や朱色の顔料として当時広く使われていた鉛白、鉛丹の影響ではないか」と話している。(香取啓介)

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コメント 3

カナッペ

欧米の「人類は直線的に進歩して、時が経てばそれだ賢くなる」というような歴史観に未だに支配されているように見える現代日本。
でも、考えても見れば、昔の人たちがそんなに愚かなら、人類などすでに滅んでるでしょう。
少しづつでもその呪縛から解放されつつあるのなら嬉しいです。
ちなみに、そういった文化相対論を知ったのは、樋口清之先生の著作「梅干しと日本刀」です。
高校時代にあの本に出会ったときから、わたしの志望校が決まりました。
by カナッペ (2013-05-30 18:22) 

三橋順子

カナッペさん、いらっしゃいま~せ。
>考えても見れば、昔の人たちがそんなに愚かなら、人類などすでに滅んでるでしょう
そうなんです。昔の人を馬鹿にできないことは謙虚に資料を見ていればわかるはずなのですが、「進化主義」に毒されていると見えなくなるのですね。

>樋口清之先生の著作「梅干しと日本刀」です。
高校時代にあの本に出会ったときから、わたしの志望校が決まりました

で、樋口先生の講義は受けられたのですか?
(と探りを入れてみる)
by 三橋順子 (2013-05-31 11:38) 

水銀

「大仏建立時に使った金めっきに大量の水銀が含まれていた」
と書いていあることから察するに、水銀がどのような使われ方を
したのか理解されてないんじゃないですかね?
水銀は金と混ぜて大仏に塗り、蒸発させていたんですよ。

by 水銀 (2016-12-03 12:59) 

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