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性同一性障害の人の割合 [現代の性(性別越境・性別移行)]

10月7日(日)

2012年10月5日(金)に放送されたフジテレビ系(FNN)の「セクシャルマイノリティーの自殺予防の取り組みを取材しました」という番組の中で、
「日本国内でおよそ1,000人に1人いるといわれる性同一性障害者」
という説明があったそうだ。

1000人に1人なんて、いったいいつの間にそんな話になったのだろう?

根拠は何なのか、誰がそんなことを言っているのか、日本における性同一性障害医療・研究の第一人者である杏野丈先生もご存知ないらしいから、まったく不思議な話だ。
http://d.hatena.ne.jp/annojo/20121005

私は講演や講義で「性同一性障害の人は1万人に1~2人」と言っている。
実は、以前は「1万人に1人」と言っていたのだが、いろいろ考えて昨年度から少し増やした。

統計的にしっかりした根拠があるわけではない。

現在までに「性同一性障害者の性別の取扱いの特例に関する法律」で戸籍の性別(続柄)を変更した人が2847人(2011年度末)いる。
これは性同一性障害の人の最小限の確定数で、問題は戸籍の変更まではしていない性同一性障害の人がどのくらいいるかということになる。
メンタルクリニックの受診者などを勘案すると、すごく大雑把な話になるが、変更済みの人の10倍いれば28470人、5倍なら14235人いることになる。

長年、この世界を見てきた感触では、この間に収まると思う。

日本の総人口を1億2800万人とすると、28470人だと1万人に2.2人、14235人だと1万人に1.1人ということになる。
だから「性同一性障害の人は1万人に1~2人」という私の説明になる。

そんなには(桁が違うほどは)外れていないと思う。

「一般社団法人gid.jp日本性同一性障害と共に生きる人々の会」代表の山本蘭さんは、もう少し科学的で「現在の性別変更者数が3000人で、この人達は全員GIDで手術済み」、「ジェンダークリニックでの統計で受診者の約20%が手術まで進むということから考えると、3000/0.2=15000」となり、日本の性同一性障害の人の数を15000人と推計する。

割合に直すと、1万人に1.2人ほどになり、私の推算の範囲に入る。

まあ、全体状況を把握している医師・研究者なら、それほど大きな違いはなく、1万人に1~2人、多く見る方でも1万人に数人という感触だと思う。

つまり、分母は万の単位だ。
マス・メディアが報じる1000人に1人は明らかに多すぎる。
5~10倍多く見積もっていると思う。

そもそも、諸外国と比較すると、アメリカではFtM (Female to Male)が10万7000人に1人、MtF(Male to Female)が3万7000人に1人、オランダではFtMが3万400人に1人、MtFが1万1900人に1人となっている。
(Harry Benjamin International Gender Dysphoria Association『Standards of Care for Gender Identity Disorders, sixth version』2001年 の統計)

ちなみに、アメリカよりオランダの方が約3倍多い。
オランダの社会的自由度は世界最高レベルであることを考えると、MtFが1万人に1人、FtMが3万人に1人というのは、かなり信用していいように思う。

つまり、1万人に1~2人という日本の見積もりは、国際的に見るとそれでもやや多めなのだ。

ついでに言うと、日本ではFtM:MtF≒2:1(受診者数の比)でなぜか世界の趨勢と逆転している。
上記の見積もりを適用するとFtMが1万人に2.9~1.5人、MtFが1万人に1.5~0.75人ということになる。

まして、1000人に1人なんて・・・。
本当にそうだったら、日本は世界中できわめて特異な発症率ということになる。

なぜ、そんな根拠がない数字がマス・メディアで流されているのか?

第一に考えられる理由は、マス・メディアは大袈裟な話が好きだということ。
1万人に1人より、1千人に1人と言った方が「えっ!そんなにいるのか!」と衝撃的である。
「そんないい加減な」と思う人も多いだろうが、耳目をひくことを大事にするマス・メディアには、けっこうそういうことがある。

第二に一部の当事者が、性同一性障害の範囲を拡張して意図的に多い数字を流している可能性。
性別違和感がある人は、これも私の感触だが、おそらく1000人1人くらいは間違いなくいると思う。
もっと多いかもしれない。
しかし、そうした社会生活に大きな不適応をきたさない程度の人も含め、性別違和感があればすべて性同一性障害であるという考え方は、医学的に明かな間違いである。
もしそうなら、医師の鑑別診断はずっと楽になるだろう。
性別違和感=性同一性障害という考え方は、より多数の人を精神疾患に囲い込むという意味で危険思想ですらある。

第三に考えられるのは、同性愛者が混入してカウントされている可能性。
100人に数人の割合でいると推測される同性愛者が性同一性障害に混入すれば、その人数はたちまち増える。
教育現場の捉え方などがまさにそうで、非典型な性をもつ生徒は、100倍も多い同性愛者の存在を考慮せずを、みんな性同一性障害だと思ってしまう。
だから、学校現場にアンケートを取れば、1000人に1人なんていう数字は簡単に出るだろう。
いやもっと多く出るかもしれない。
ジェンダー・アイデンティティ(性自認)の問題である性同一性障害と、セクシュアル・オリエンテーション(性的指向)の問題である同性愛とは、まったく仕組みが違う。
精神疾患である性同一性障害と異なり、同性愛は精神疾患ではなく病気でもない。
両者を混同することは、学問的にまったく誤りであるだけでなく、同性愛者、性同一性障害の人たち双方にとって大きな迷惑である。

ある病気の人がどのくらいの比率で現れるか(発現率)ということは、医学的にかなり重要な問題である。
マイノリティ論でも、あるマイノリティが社会の中でどのくらいの比率で存在しているかということは、やはり重要なポイントだ。

多ければいいってもんじゃない。
マス・メディアには、数字に関してはもっと慎重な報道を求めたい。

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コメント 8

みれい

 はじめまして。

 比率が重要という点には同感で、
‘性同一性障害の人の割合’、
‘トランスジェンダーの人の割合’、
‘性別違和を抱えている人の割合’
というように、より詳しく明らかになっていくことを望みます。
どの学問で明らかにされるのかははっきりとはしませんが。

 一方、発達障害の分野では
“スペクトラム”という概念によって
区分するよりも(抱えている問題を)支援するほうを重視しているように思われます。
by みれい (2012-10-14 19:11) 

依都美

僕は女性になりたいと、ずっと心の中で思っていましたが、金銭的に可能になった現在の年齢(39歳)では、もう不可能ですよね。
どっちつかずのオカマではイヤなのです。女性らしく、普通に暮らしたいのですが、身体も顔も男なんです。
あきらめて、男のままで寿命を全うしなければならないんでしょうね。ものすごく辛いです。
何かしらアドバイスをいただけないでしょうか。毎日苦しみながら男を演じて生活しています。
by 依都美 (2013-05-08 22:19) 

三橋順子

依都美さん、いらっしゃいま~せ。
39歳で女性に移行するのが遅いかどうかは相対的なもので、ご自身の心の問題ですからなんとも言えません。79歳でSRSを受けられた方もいますから。
ただ、女性に移行した後、それで収入を得られる仕事に就けるかどうか、その目処はあった方がいいと思います。
それと、女性として社会生活を送るには、まず顔の手術(FFS)を先にして、その後、SRSをした方がスムーズにいくと思います。
要はご本人の覚悟の問題ですね。
by 三橋順子 (2013-05-09 11:30) 

Gen

こんばんは。
先生のお見立てでは10000人に1~2人なのですね。
がんなどの疾患と違い統計が難しい分野なのでこの辺りは気になっていました。
最近気になるのが、ゲイと性同一性障害がマスメディアでは同じもののように扱われているということです。
一般の人たちも両者が同じもののように思っている節が見受けられます。

私がほんとの自分に気付いたのは昨年の秋で、それから知恵袋のリサーチを始めました。ほとんど何も知らなかったのでそこから得た事は多かったです。友人も得て、自分自身は落ち着いたものの、関連の質問の無知さ加減には驚くほかありません。「女装する人は必ず男が好き」「ニューハーフはみんな性同一性障害」「ゲイと性同一性障害は同じ」等々・・・・。テレビの影響でしょうか?

数日前にカラオケ選手権という番組でゲイの男性がお母様に真実を伝える、というシーンがありました。テレビではゲイの男性は必ず女性っぽい雰囲気のある人か、ニューハーフさんで、普通の男のままでは男をすきになってはいけないみたいです。これまで何度かそういう方々が出てくるテレビをみましたが、みんなそうなのでうんざりしました。(彼らが悪いとは全然思ってないです。テレビの扱いのあり方の話です。)冒頭の男性のお母様はすでにご存じで、カミングアウトの成功は良かったのですが、それはそれとして、なんで男が男のままでゲイでいてはいけないのかと疑問が湧きあがります。自分が男だったら彼らと同じ立場になったはず、という思いもあり、とても不当だと思っています。

FtM,MtFの人たちにとって、生物学上の自分と同じ体の人を求めることは異性愛なのに、そこが分かってもらえないのは辛いことです。
日本にはFtMの割合が多いと言ってる人もいるようですが、私はこの国の何かに問題があると思っています。外国だったら普通の女の人でいられたかもしれない、と思うことがあったので。


by Gen (2013-09-09 23:18) 

三橋順子

みれいさん、いらっしゃいま~せ。
お返事、たいへん遅くなり失礼しました。
>(抱えている問題を)支援するほうを重視しているように思われます
私もこの観点は重要だと思います。
1人1人が持っている条件・環境、や抱えている問題は違うわけで、もう少しきめ細かな対応をしないと、こぼれる人ばかりになってしまうように思います。
by 三橋順子 (2013-09-12 10:41) 

三橋順子

Genさん、いらっしゃいま~せ。
同性愛者とトランスジェンダー(その内の医療化された人が性同一性障害者)の区別は、私の講義を受けている学生にとってもいちばんわかりにくいところのようなので、かなり丁寧に解説しています。
トランスジェンダーが自分の性(性的自己)の問題(性自認と身体的性・社会的性の不一致)であるのに対して、同性愛は相手の性(性的他者)の問題(性的他者が同性である)なのですが、性を分析的に考えられない人には、そこの認識ができないのです。
まあ、メディアを筆頭に「頭が悪い」と言えばそれまでなのですが、実際には理解する気がないからわからないのです。

>外国だったら普通の女の人でいられたかもしれない
おっしゃる通りで、日本には男が好きなら女にならなければいけない、女が好きなら男にならないといけないという考え方(思い込み)がすごく強いように思います。
現在日本で急増中のFtMも、欧米ならかなりの部分がレズビアンの範疇に止まると思います。

by 三橋順子 (2013-09-12 10:50) 

友莉

非常に興味深かった内容でした。日本ではGIDへの治療認識も遅れていて日本精神医学会ですら手探り状態。
メディアの1000人に1人は明らかに多すぎですね。数回記事が出るともう当事者は五万といるような報道をする日本メディアを最初から信じてはいませんが。やはり主様の数字が最も信憑性が高いと思います。
因みに私もGID治療中のMTFですが年齢は43でカミングアウトしました。保育園の頃から自分の違和感は分かってましたがそれが何であるか今気付いた感じです。それまで非常に自分を
が嫌いで実際に自傷癖、自殺未遂もやりましたこの年でもSRSするつもりです。早くGID治療への道が整備されることを願っております。
by 友莉 (2014-09-10 09:40) 

三橋順子

友莉さん、いらっしゃいま~せ。
「性同一性障害」と診断される人の割合、世界(欧米)標準と比較して多いのは間違いありません。
とくにFtMは数倍レベルで多いと思います。
(MtFは欧米標準とほとんど変わりない)。
FtMがやたらと多い理由は、同性愛(レズビアン)からの流入があると考えるのが最も合理的だと思います。
なんて議論しているうちに「性同一性障害」という疾患名が無くなる状勢になってきました。

早く、すっきり自己肯定ができる状態になることを願っています。
by 三橋順子 (2014-09-15 13:33) 

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