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警視庁防犯部「新しい売春形態とその捜査」 [性社会史研究(遊廓・赤線・街娼)]

6月20日(水)

最近、古書店(股旅堂)の目録で落札・入手した資料(とても高価だった)。
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1958年2月、つまり「売春防止法」完全施行の1カ月前に、警視庁防犯部が作成した「新しい売春形態とその捜査」という「部外秘」の小冊子(16頁)。

東京都内の「赤線」は、「売春防止法」完全施行の1~2カ月前(1月末、もしくは2月末)に営業を止めた。
その時点で「モグリ売春」の捜査・摘発のために編成された特別部隊の幹部(中隊長)に回覧されたもの。

表紙に捺された部外秘の判子、隊長以下の決済印、中隊長たちの「回覧済」の月日記入と印鑑が生々しい。

「はじめに」では、売春防止法の全面実施後も「表面だけを糊塗して売春を継続しようとするものが多く出るのではないかと思われる」として、「最近までに取締面に現れた事犯からみて、予想される売春形態」を本文で次のように列挙している。

① 青線
② 旅館(ホテル)
③ カフェー・キャバレー等
④ 白線置屋(しもたやの売春宿)
⑤ ガイド・クラブ
⑥ 結婚相談所
⑦ パンマ
⑧ やとな
⑨ トルコ風呂。

この内、④は商家ではなく一般住宅(しもた屋)での売春行為。
⑤のガイド・クラブは「ステッキ・ガール」と呼ばれた同伴サービスを装った売春クラブ。
⑥は結婚相手の紹介を装った売春組織。
⑦は「パンパン・マッサージ」の略で、按摩を装った売春。
⑧は料理店、料亭などに派遣されて客を接待する女性で、中には売春をする者もいた。
⑨は「ソープランド」の旧称で、この時点で都内に50数軒あり、偽装転業の代表的な業種だった。

それぞれについて「捜査要領」を指示している。
警察は「売春防止法」完全施行後の状況をかなり正確に予想していたし、おおむねそのようになった。

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ICD-11の改訂、性別問題に関するポイント [現代の性(性別越境・性別移行)]

6月20日(水)

今回のICD-11の改訂、性別問題に関するポイント。

① ICD-10(1990年)で、精神疾患の中のグループ名として位置づけられていた「gender identity disorder(性同一性障害)」がグループ名としても、疾患名としても完全に消滅した。

② 性別問題については、新設された第17章「Conditions related to sexual health (性の健康に関連する状態)」に「gender incongruence(性別不合)」が設けられた。

③ 第17章は、第1~16章のdisorder(疾病)とdisorderではない第18章妊娠・出産との間の位置づけで、ICD-10では性別問題が精神疾患と位置づけられていたのに比べて、扱いが大幅に「軽く」なった。

④ 「gender identity disorder(性同一性障害)」と「gender incongruence(性別不合)」は、リスト(疾患分類)上の位置づけが大きく異なるだけでなく、診断基準も変更されているので、単純な病名変更(置き換え)ではない。

⑤「gender incongruence(性別不合)」は、「その人が体験するジェンダー(experienced gender )と指定された性別(assigned sex)の間の著しく、持続的な不一致により特徴づけられ、以下のうちの2つ以上が徴候として認められるもの」として定義された。

⑥ 診断基準は最初の3つで、primary or secondary sex characteristics(第一次及び第二次性徴)が重視されている。
身体的性徴への強い違和、解放願望、獲得欲求(の内の2つ)がないと診断されない。
望みのジェンダーで扱われたい(生活したい)という欲求だけでは、診断基準を満たさない。

⑦ 今回の大改訂は、前回の改訂(1990年)で同性愛の脱病理化が達成された流れを受けたもので、19世紀後半以来、病理(精神疾患)とされてきた様々な非典型な性の在り様が、病理から脱却していく大きなパラダイム転換の最終段階ととらえるべき。


WHO(世界保健機関)など国連の諸機関には「ジェンダーの多様性は病気ではなく個人の状態」という認識がすでに強くある。

個人の性別をどうするかは、その人が決めればいいこと(選択自己・自己決定)で、WHOのような機関が基準を定める必要はなく、むしろ、個人の性別に医療的な診断や法律が介入するのは、自由な自己決定を妨げるという意味で、むしろ人権侵害という考え方だ。

その基本認識は、すでに10年以上前に「ジョグジャカルタ原則」(や、2014年5月30日のWHOなど国連5機関の「法的な性別の変更に手術を要件とすることは身体の完全性・自己決定の自由・人間の尊厳に反する人権侵害とする共同声明」で示されている。

今回の改訂(ICD-11)でも、そうした認識がベースになっている。
ただ、性別の問題で医学的診断を必要とする人も(まだ)いるという現状に配慮して「疾患」ではなく「condition(状態)」として残したのだと思う。
つまり、今回の改訂は、性別問題の完全な脱病理化までの過渡的措置と考えるべきだろう。


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ICD-11の HA60 Gender incongruence of adolescence or adulthood の定義と診断基準 [現代の性(性別越境・性別移行)]

6月20日(水)
ICD-11の HA60 Gender incongruence of adolescence or adulthood の定義と診断基準

HA60 Gender incongruence of adolescence or adulthood(HA60 青年期および成人期の性別不合)は次のように定義される。

characterized by a marked and persistent incongruence between an individual´s experienced gender and the assigned sex, as manifested by at least two of the following: (その人が体験するジェンダーと指定された性別の間の著しく、持続的な不一致により特徴づけられ、以下のうちの2つ以上が徴候として認められる)

診断基準は以下の通り。
(1)~(4)の内、2つを満たす必要がある

1)a strong dislike or discomfort with the one’s primary or secondary sex characteristics (in adolescents, anticipated secondary sex characteristics) due to their incongruity with the experienced gender;(体験するジェンダーとの不一致により、その人の第一次及び第二次性徴〈青年期においては予想される第二次性徴〉への強い嫌悪または不快感)。

2)a strong desire to be rid of some or all of one’s primary and/or secondary sex characteristics (in adolescents, anticipated secondary sex characteristics) due to their incongruity with the experienced gender(体験するジェンダーとの不一致により、その人の第一次及び第二次性徴〈青年期においては予想される第二次性徴〉の一部またはすべてから解放されたいという強い欲求)。

3)a strong desire to have the primary and/or secondary sex characteristics of the experienced gender(体験するジェンダーの第一次及び第二次性徴〈青年期においては予想される第二次性徴〉を獲得したいという強い欲求)。

4)The individual experiences a strong desire to be treated (to live and be accepted) as a person of the experienced gender(その人は、体験するジェンダーの人間として扱われたい〈生活し受け入れられる〉という強い欲求を体験する)。

The experienced gender incongruence must have been continuously present for at least several months(体験するジェンダーの不一致は、少なくとも数か月は持続しなければならない)。

The diagnosis cannot be assigned prior the onset of puberty(思春期の開始以前には診断することはできない)。

Gender variant behaviour and preferences alone are not a basis for assigning the diagnosis(ジェンダーに非典型な行動や嗜好だけでは、診断をする基盤とはならない)。

診断基準は、primary or secondary sex characteristics(第一次及び第二次性徴)を重視している。
つまり、身体的性徴への強い違和、解放願望、獲得欲求(の内の2つ)がないと診断されない。

望みのジェンダーで扱われたい(生活したい)という欲求だけでは、診断基準を満たさない。

日本語訳は、針間克己先生の試訳を参照(というか、ほとんどそのまま)。
http://d.hatena.ne.jp/annojo/20180618

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「Conditions」を「病態」と訳すのは意図的誤訳 [現代の性(性別越境・性別移行)]

6月20日(水)

注目は、厚生労働省が「Conditions related to sexual health (性の健康に関連する状態)」を「性保健健康関連の病態」と訳している点。
「病態」は、保険適用の継続を考えてた意図的な誤訳だと思う。
ICD-11での「Conditions related to sexual health」の位置づけは、「疾病」と「疾患ではない(例えば妊娠・出産)」の中間的な所なので、「状態」と直訳するか、せいぜい「異状」くらいで、「病」という字は使うべきではない。

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性同一性障害 精神疾患対象外 WHO
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WHOの「国際疾病分類」の最新版では、性同一性障害が「精神疾患」から外れ、「性保健健康関連の病態」という分類に入った。名称も変更され、厚生労働省は「性別不合」との仮訳を示した。同省は3年ほどかけて正式な和訳を検討する。

性同一性障害が精神疾患の分類から外れたことについて長崎大の中根秀之教授(社会精神医学)は「国際的な脱病理化の動きが反映され、病気というより状態として捉えようという感覚だろう」と指摘。日本では、性同一性障害の人が戸籍上の性別を変更するには法律上、性別適合手術が必要だが、「手術を要件とすべきか今後議論が高まるのでは」と話す。

厚労省の担当者は、「将来的な影響はあるかもしれないが、保険制度や治療方法の変更などへすぐにつながるものではない」としている。【藤沢美由紀】
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『毎日新聞』2018年6月20日 東京朝刊
https://mainichi.jp/articles/20180620/ddm/012/040/041000c
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