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(講演録)LGBTにやさしいトイレ [お仕事(講義・講演)]

11月18日(土)

日本トイレ協会主催「第33回全国トイレシンポジウム in横浜」
2017.11.18(横浜市旭公会堂)
セッション1「トイレ利用者からみた『まちなかトイレ』の現状と課題」

    LGBTにやさしいトイレ
               三橋順子
           (性社会・文化史研究者 明治大学非常勤講師)

「LGBTにやさしいトイレ」というテーマをいただきましたが、LGBTすべてがトイレの困難を感じているわけでありません。LGBTの内、L(レズビアン=女性同性愛者)G(ゲイ=男性同性愛者)B(バイセクシュアル=両性愛者)は、まったくとは言いませんがほとんど問題はないはずです。なぜなら彼/彼女らは、外見的にはまったく一般の男性/女性と変わらないからです。

トイレを使用する際に現実に機能しているのは性別表現(Gender Expression)です。わかりやすく言えば、男性に見えるか、女性に見えるかということです。

ですから、LGBT全体にトイレの問題があるかのように主張する、印象付けようとする人たちやNPOがあるとしたら、それは何か別の思惑・目的があると思った方がいいでしょう。トイレの使用にさして問題がないLGBをことさら別扱いしようとするのは隔離にほかならず、むしろ差別の助長です。

それに対してT(トランスジェンダー=性別越境者)は、一般にトイレの困難があると思われています。たしかに男性から女性へ、あるいは女性から男性への移行期では、望みの性別表現の獲得が不十分で、トイレの使用に困難を感じる人はいます。

しかし、望みの性別で生活しているトランスジェンダーは、Trans-womanなら女性トイレを、Trans-manなら男性トイレを使っているのが一般的です。そうでなければ「多目的トイレ」を使用します。したがって、少なくとも公共のトイレでは、Tはそれほど大きな困難を感じていません。

公共のトイレで最も困難を感じているのは、近年、増加している「Xジェンダー」の人たちです。「Xジェンダー」とは、おおまかに言って、自分の性別を男女どちらにも決めたくない人たちで、多くの場合、その外観は男女どちらにも典型的ではありません。したがって、男女どちらのトイレを使うのも難しい事態が生じます。

移行期のTやXの人たちにとって最も現実的な選択は、男女別に分かれていないトイレを使うことです。実際には「多目的トイレ」を使うことになります。

さて、先ほど「トイレを使用する際に現実に機能しているのは性別表現です」と申しました。それに対して「いや、トイレの使用は、法的な(戸籍上の)性別で分けられるべきだ。法律でそうなっているはずだ」というご意見があると思います。

しかし、トイレの使用に際して戸籍上の性別に従うことを明確に定めた法律はありません。男性が女性トイレを使用して通報・逮捕された場合、一般的には刑法130条(住居侵入等)の「正当な理由がないのに、人の住居若しくは人の看守する邸宅、建造物若しくは艦船に侵入し」という条文が適用されますが、排泄目的の場合、「正当な理由なし」と言い切れるのかかなり微妙です。

そもそも、公衆トイレを男女に分けなければならない法律もありません。「労働安全衛生法」に基づく労働安全衛生規則、および事務所衛生基準規則で、トイレは男女別に設置することが定められていますが、それは事業所・事務所が対象であって、公衆トイレは対象ではないのです。

実際、公衆トイレの男女分離が進むのは1980年前後からで、それ以前は男女いっしょの公衆トイレがけっこうあったことを、私と同年輩(60歳前後)以上の方は覚えていると思います。そもそも分けられていなかったのですから、不法侵入という規定がなかったのも当然なのです。
女性の立小便.JPG
↑ 1907年(明治40)頃の「公設トイレ」和装・洋装の男性の間で袴姿の女性(女学生)が立小便をしている。

こうした法的な規定を無視して、戸籍上の男性が女性トイレを使用したら即犯罪のようなイメージが語られるのは、Tの人権という観点からかなり問題だと思います。

さらに言えば、どうやって戸籍の性別通りのトイレ使用を担保・確認するかです。すべての公衆トイレに番人を置いて、入る時に性別記載がある身分証明書をいちいちチェックするみたいなことをするのでしょうか。たぶん長蛇の列になって「お漏らし」が続出すると思います。

まとめますと、「TもしくはXにやさしいトイレ」とは、トイレを強固に男女二元化せず、その間に柔軟に使える第三領域(サード・スペース)を設けること、具体的には「多目的トイレ」を増設・充実していくことです。ただし、その際、設置を男女別にせず「オールジェンダー」な形にすることを、トランスジェンダーの1人として強く望みます。

最後に、トイレ・ピクトグラムの問題についてお話します。これは、LGBTについての施策では「先進地域」とされている渋谷区役所のトイレのピクトグラムですが、こんな格好のトランスジェンダーはいません。トランスジェンダーは「半男半女」ではないのです。こうしたピクトグラムは、トランスジェンダーにとっての誤ったイメージを流布しかねず、止めてほしいと思います。
渋谷区役所 (3).jpg
欧米では20世紀中頃まで、「半男半女」をフリークスとして見世物にして差別してきた歴史があります。「半男半女」のピクトグラムはそうした差別の歴史を考えた場合、不適切なものだと考えます
半男半女(Josephine_Joseph) (2).jpg
Josephine Joseph(映画『Freaks』1932年:アメリカ)

問題があるピクトグラムを無理に使わなくても、「ALL GENDER」と表記すれば済むことではないでしょうか。
台湾3.jpg
私からの話題提供は以上です。ご清聴ありがとうございました。

【シンポジウムの討論の最後に】
先ほどは今日のテーマである「街なかトイレ」(公衆トイレ)に限定してお話しましたが、「労働安全衛生法」に規定された「事業所・事務所」の場合は、管轄者の許可なく、Tが戸籍上の性別と異なるトイレを使えるか?という問題が出てきます。
この点については、現在、経済産業省とそこに勤務するTの職員との間で裁判になっています。
結果はまだわかりませんが、すでにジェンダーの移行が済んでいるTに対して、戸籍上の性別を理由にジェンダーに則したトイレの使用を禁じることは、人権上かなり大きな問題があると、私は考えていることを申し添えます。

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