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「第39回日本社会精神医学会」、結局、中止に [お仕事(講義・講演)]

3月17日(火)

「第39回日本社会精神医学会」(当初予定:3月26~27日:福岡大学)、9月頃に延期の予定が、日程調整がつかず、結局、中止に。

シンポジウム5「トランスジェンダーの未来」は、永野健太(福岡大学医学部 精神医学教室)先生が座長で、
演者が
康 純(大阪医科大学 総合医学講座 神経精神医学教室)
「精神医療の現場からみたトランスジェンダーの未来」
佐々木掌子(明治大学文学部 心理社会学科 臨床心理学専攻)
「性別二分法(gender binary)から性別スペクトラム(gender spectrum)へ」
三橋順子(明治大学文学部 性社会文化史)
「選別から自己決定へ」
という、豪華なラインナップだったのに、残念。

シンポジウム(講演)の抄録原稿も書いて送ったのに、すべて幻に。
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第39回 日本社会精神医学会 シンポジウム5「トランスジェンダーの未来」
           2020.03.27(福岡国際会議場)

      選別から自己決定へ
            三橋 順子(明治大学文学部)
 
2019年5月のWHO総会でICD-11が正式採択され、世界のトランスジェンダー(誕生時に指定された性別と違う性別で生活している人)の多くが待ち望んでいた「性同一性障害」概念の消滅と性別移行の脱精神疾患化が実現した。   

トランスジェンダーは、同性愛の脱病理化(1990年のICD-10で達成)に遅れること29年にして、19世紀以来の長い年月、精神疾患の名のもとに抑圧されてきた状態から、ようやく解放されることになった。

日本では、1990年代末から2000年代初頭にかけて「性同一性障害」概念の流布によって、性別移行の病理化が急速に進んだ。そこで形成された「性同一性障害」体制は、性別移行のさまざまなステージに医師が介在し、精神科医が「ガイドライン」やDSMの診断基準を道具に性別を移行するにふさわしい人を選別するものだった。

それにより、性別の移行を望む人たちは大きく分断された。精神科医に選ばれた「性同一性障害者」の中には、選ばれなかった人たちを「ニセモノ」「脱落者」として差別する人まで現れ、従来のコミュニティは回復不能なまでに傷つけられた。

しかし、そうした選別の時代は終わろうとしている。

2014年5月、WHOなど国連諸機関が「強制・強要された、または不本意な断種手術の廃絶を求める共同声明」を出した。その内容は、トランスジェンダーやインターセックスの人々が、希望するジェンダーに適合する出生証明書やその他の法的書類を手に入れるために、不本意な断種手術(involuntary sterilization)を要件とすることは身体の完全性・自己決定の自由・人間の尊厳に反する人権侵害である、というもので、性別変更に性別適合手術を必須とする法システムは人権侵害という考え方が明確に打ち出された。

この声明は性別移行に関するWHOの基本的な考え方がベースにある点でICD-11と関係している。それは、自己決定の重視である。性別の移行にあたって重要なのは自己決定であり、法律はそれを誘導あるいは規制してはいけないし、医療は自己決定をサポートする形が望ましいということだ。

性別を移行するには程度の差はあれ医療サービスが必要だ。しかし、個々の当事者が医療に囲い込まれ、医療に依存してしまうことは好ましくない。性別の移行はあくまで自己選択・自己決定であるべきだ。医療の側は、自己決定を阻害することなく、性別移行を支援することが求められる。そして、より広く、トランスジェンダーの健康と福祉の増進という観点に立つべきだ。

より多くの性別移行を望む人たちが、病理を前提としなくても、自分の望む性別で充実した生活ができるような社会システムを作っていくことが重要だと考える。日本社会が、そうした方向に向かうならば、トランスジェンダーの未来は大きく開けるだろう。

【参考文献】
三橋順子「LGBTと法律 日本における性別移行法をめぐる諸問題」(谷口洋幸編著『LGBTをめぐる法と社会』日本加除出版、2019年)
三橋順子「ICD-11とトランスジェンダー」(『保健の科学』2020年4月号、杏林書院)
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