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性別移行の脱精神疾患化をめぐる諸論点 [現代の性(性別越境・性別移行)]

5月26日(日)

【単なる病名変更ではない】
今回のICDの改訂は、たんなるGender Identity Disorder(性同一性障害)からGender Incongruence(性別不合)という病名の変更ではない。

そもそもICDでは、性同一性障害は病名(疾患名)でなかったし、診断基準も変わる。

今回の改訂のポイントは、従来、精神疾患(Disorders of adult personality and behaviour)に位置付けられていた性別の移行を望むことが「Conditions related to sexual health (性の健康に関連する状態)」というカテゴリー(疾患と非疾患の中間の位置づけ)になったということ(脱精神疾患化)。
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【パラダイム転換】
今回のICDの大改訂で、今まで精神疾患だったフェティシズム(物に対する性的嗜好)やマゾヒズム(被虐性愛)なども脱病理化。

19世紀以来、「病理(精神病)」とされてきた様々な非典型の性の在り様が、20世紀後半以降、次々に脱病理化(同性愛は1990年に脱病理化)していくパラダイム転換の最終段階。

もう少し、近い視点で言えば、性別移行の脱精神疾患化は、世界的な医療福祉システムから人権尊重(医療サービスを受けることを含む)システムへというパラダイム転換を踏まえてのこと。

医療福祉システムの中で生きて来た日本の「性同一性障害者」が戸惑うのもわからなくないが、日本政府も賛成したWHOの決定なので、それを踏まえて、性別移行を望む多くの当事者にとって、より良いシステムを再構築していくしかないと思う。

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【移行措置】
今回のICDの改訂で、精神疾患としてのGender Identity Disorder(性同一性障害)という概念は完全に消滅するが、実質的な後継概念はGender Incongruence(性別不合)になる。

両者は疾病リスト上の位置づけが大きく異なり、診断基準も違うので別のものだが、現実的な問題として「性同一性障害」の診断書が無効化され、「性別不合」の診断基準に基づいて診断書を取り直すというのは、当事者の負担があまりに大きい。
これは私見だが、移行(読み替え)措置が取られると思う。

性別適合手術への健康保険適用も、「性同一性障害」の治療に対するものなので、論理的には別の概念である「性別不合」には適用されないはずだが、これも移行(読み替え)措置が取られると思う(私見)。
まあ、現状でも性別適合手術への保険適用は「混合診療」の問題で事例がきわめて少ないのだが。

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【次の焦点はDSM】
今回のICD(国際疾病分類)の大改訂で、性別の移行を望むことが精神疾患から外れたことで、次の注目は、2013年の改訂後、「Gender Dysphoria(性別違和)」の病名で精神疾患としているアメリカ精神医学会の「精神疾患の分類と診断の手引」(DSM-5)がどうなるか?

アメリカ精神医学会は、ICD準拠を基本にしているので、近い将来の小改訂で「Gender Dysphoria(性別違和)」を外すことも考えられる。
一方で、アメリカは精神科医の権益確保(パイは小さくしない)という意識も強いので、微妙。

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【性別不合の診断】
今回のICDの大改訂で「性同一性障害」の消滅が確定し、2022年以降は「性別不合」の診断になるわけだが、診断基準を見る限り、「性別不合」の診断は身体違和を重視するので「性同一性障害」の診断より厳しくなると思われる(専門医に聞いた)。

身体違和の少ないXジェンダー系の人は、「性別不合」の診断書をもらうのはかなり難しくなるかも。

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【子どもの性別不合問題】
WHO(世界保健機構)のICDの大改訂、いろいろな専門委員会が議論して改訂案を作成するわけだが、性別移行の脱精神疾患化については、大きな異論はなく、2015年くらいには、ほぼ方針が決まっていた(と聞く)。

最後まで意見が対立したのは、子ども(思春期以前)の性別違和の扱い。
精神疾患ではない形でリストに残すか、脱病理化してリストから削るか、専門委員の意見が真っ二つで(7対7と聞いた)、なかなか改訂案がまとまらなかった。。

結局、今回の改訂では、「子どもの性別不合」という形で、リストに残る形になったが、この点は、今後の課題になるだろう。

一方は、性別違和をもつ子どもの福祉のために、診断の根拠を残すべきだという考え方。
もう一方は、そもそも子供の性別違和は不確定的で診断がつけられない、診断できたとしてもなんら治療はできないわけで、「病理」として残す意味がないという考え方。

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【医療福祉から人権尊重へ】
大学生が望みの性別で学生生活を送りたいと希望したときに、学生課が、

「性同一性障害の診断書を提出してください」と言うのが医療福祉システム。
「わかりました。診断書の提出は不要です」と言うのが人権尊重システム。

私は後者を支持するし、及ばずながらそれを推進してきた。
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