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『週刊金曜日』の客観的事実に反する論説 [現代の性(性別越境・性別移行)]

10月3日(水)

『週刊金曜日』に掲載された「『新潮45』問題から東京五輪後のLGBT運動を想像する」(古怒田望人)という論説。
執筆者が若手のジェンダー・クィアの方なので、あまり言いたくないのだけど、下記の引用部分(「空白の30年」を生んだアカデミズム批判)、そもそも事実関係がおかしい。
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この問題の原因の一端には、アカデミズムが引き起こした大きな負債がある。

今から30年ほど前の1990年に同性愛は国際的に病理とみなされなくなった。国内でも同性愛者の学生団体「アカー」が91年に起こした裁判で同性愛者として勝利を得た。このような流れのなかで、現在トランスジェンダーと呼ばれる活動家や研究者たちの活発な運動や研究がアメリカを中心になされた。けれども、パトリック・カリフィアの『セックス・チェンジズ』(97年)を最後に海外でのセクシュアルマイノリティをめぐる議論や研究に関する単著は現在に至るまでほとんど翻訳されていない。

このような状況は、現在の日本のLGBTをめぐる問題を議論するリテラシー能力を当事者ならびに関係者から奪っている。
http://www.kinyobi.co.jp/kinyobinews/2018/09/27/tokyo2020lgbt/2/

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パトリック・カリフィア 『セックス・チェンジズ -トランスジェンダーの政治学-』 の翻訳(作品社)は2005年、ケイト・ボーンスタイン『隠されたジェンダー』 の翻訳(新水社)は 2007年。

トランスジェンダー本ではないが、セクシュアル・マイノリティを扱った大著、フレデリック・マルテル『現地レポート 世界LGBT事情ー変わりつつある人権と文化の地政学ー 』の翻訳(岩波書店)は2016年に出ている。
全部、私が書評をしているので間違いはない。

さらに言えば、欧米の研究者ではないが、台湾の何春蕤(ジョセフィン・ホー)『「性/別」攪乱―台湾における性政治―』(御茶ノ水書房)が2013年に出ている。
私のコメントも載っているから間違いはない。

たしかに翻訳書の出版は、出版社の経営事情的に、なかなか難しいのは確かで、量的に十分ではないが、「空白の30年」というのは、まったく客観的事実に反する。

若い論者が、上の世代がやってきたことを批判するのは、ある意味当然のことだが、批判は事実に基づいてしてほしい。

セクシャル・マイノリティの理論本の翻訳書なんて、ほぼ確実に売れないわけで、積極的に出版してくれる出版社は、昔も今もめったにない。
そんな状況下で、翻訳と出版に努力された人たちへのリスペクトがもう少しあるべきではないか。「『〇〇』が翻訳出版されていない。アカデミズムの怠慢だ!」と言うのなら、上の世代のせいにするのではなく、自分で翻訳・出版すればいいと思う。
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