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女性的男子の軍隊生活の実態―一例として― [性社会史研究(性別越境・同性愛)]

3月6日(日)

今、戦後混乱期のノガミ(上野)の男娼世界で抜群の美貌で知られた「人形のお時」姐さん(↓)についてまとめているのだが、それに関連して・・・。
人形のお時(『別冊怪奇雑誌』195101)(2).jpg

男性性優位原理(machismo)が支配する 旧・日本軍において、女性的な男性は、軍営内で過酷な「いじめ」にあっていたというのが一般的な見解である(ちゃんと実証的に検証した論文は知らないが)。
一般論として、それを否定するつもりはない。
ただ、常にそうだったかというと、どうも違うようだ。

お時姐さんは、女形役者として有楽座の舞台に出ていた時、召集令状を受け取り、長く伸していた髪を切って入営する。
時期は1943~44年(昭和18~19)、お時さん19~20歳の時だった。

その後の詳しい経緯は不明だが、1944年末~45年初頃、東京月島の高射砲第114連隊の1904部隊に配属されていた。
B29の空襲から帝都を防衛する重要部隊である。

お時さんは最下級の二等兵であるのもかかわらず、「なにしろ卵をむいたような色白の美貌だったので、古参兵などにはかわいがられたり、中隊長の当番兵になったりしていたので、いつも楽な勤務に回されていた」
(鎌田意好「異装心理と異装者の実態」『風俗奇譚』1965年7月号 文献資料刊行会)

「力仕事は一切免除され、みんなから『お嬢さん、お嬢さん』と呼ばれていた」
「女ッ気のない軍隊生活は、或はお時さんにとって結構楽しめたかもしれない」
そして「終戦にならぬ中『肺浸潤』というデタラメな名目で除隊」になる。
(三宅淑男「男になれぬ男 男娼のベテラン お時さん」『別冊 怪奇世界』性愛特集号 1951年1月 加賀屋書房)

お時さんは、月島部隊の班長(直属上官)の軍曹に愛されて「処女?を破られ」、それが敗戦後の男娼生活のきっかけになるのだが、少なくともその軍隊生活は過酷ないじめの連続という状況ではなかったようだ。

実は、資料を丁寧に当たっていくと、こうした事例は他にいくつも出てくる。

女性が不在の軍隊で、女性的男子がどう扱われたかは、一様ではなく、かなり多様であったのではないだろうか。



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コメント 2

hiro

先生、またまたお邪魔します。
前に少し書きかけて、途中で茶々が入って止めてしまいましたが、土方の現場で女装をさせられた話を書いた者です。
今回の先生のブログのタイトルだけ見て本文を読む前に、「その現場で一番偉い人の女になって可愛がってもらえば楽できるじゃない。」と思いました。
するとまさにその様な話が書かれていて驚きました。
ちなみに私も同じようにして楽な思いをすることができました。
山の中の結構危険な現場で、発破作業もあり、落石とかもあったので、ケガが怖かったで助かりました。
我ながらズルいなと思ったのを覚えています。
by hiro (2016-03-07 01:19) 

三橋順子

hiroさん、いらっしゃいま~せ。

おっしゃる通り、男性しかいない世界では、女性的な男性は「その現場で一番偉い人の『女』になって可愛がってもらえば楽」というのは実際です。

牢屋(留置所・刑務所)の雑居房がそうですし、「お時さん」がいた日本の軍隊はまさにその典型だと思います。
昭和の「暴走族」の世界でも、後にニューハーフのなるような女性的な少年が「ヘッドの女」として可愛がられていた例を、私は知っています。

ただ、研究者のほとんどは、そうした現実を知らないし、知っても受け入れがたいのが現実です。
「一般論」的に、男性性優位な世界では、女性的男子はひどい「いじめ」に遭っていないといけないのです。
そこらへんの理念優先・現実軽視の感覚は、まったく困ったものです。

「土方の現場で女装」のお話、ぜひまた聞かせてください。

by 三橋順子 (2016-03-12 14:06) 

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