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「赤線」映画レビュー [性社会史研究(遊廓・赤線・街娼)]

1月7日(木)
明日(8日)の関東学院大学「セクシュアリィ論」は、第13講「買売春」を考える(3)―歴史をたどる 昭和戦後期ー」と題して、RAA(特殊慰安施設協会)から始めて「赤線」時代を経て、「売春防止法」施行までを解説する予定。

レジュメを組んだら、A4版3枚になり、A3版2枚で印刷すると、余白ができてしまうので、サービスとして簡単な「『赤線』映画レビュー」を付けた。

ほんとうは、授業の中で視聴して解説したいのだけど、それだと6コマくらいかかってしまうので無理。
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(付録)「赤線」映画レビュー

(1)溝口健二監督「赤線地帯」(1956年、大映)
売春防止法の可否が社会的関心を集めていた世相を背景に、新吉原のカフェー「夢の里」に生きる4人の女給と楼主夫妻を描いた作品。
しっかり者で美貌のNo1女給(やすみ)に若尾文子、スタイル抜群の洋パン上がりのアプレゲール(戦後派)女給(ミッキー)に京マチ子、中年(42歳)の未亡人女給(ゆめ子)に三益愛子、病弱な夫をもつ世帯じみた通勤女給(ハナエ)に木暮実千代、楼主夫妻に進藤英太郎・沢村貞子、遣り手のおばさんに浦辺粂子という豪華な配役。
溝口監督の遺作となったこの作品は、溝口流の徹底したリアリズムに貫かれ、また吉原での現地ロケ(実景描写)を含み、「赤線」末期の様相を伝える貴重な性社会史の資料となった。

(2)前田陽一監督「にっぽん ぱらだいす」(1964年、松竹)
終戦から「赤線」廃止まで、長い伝統をもつ遊廓「桜原」(実在の「新吉原」がモデル)を舞台に、遊廓とともに生き死んでゆく楼主と女給、それを取り巻く社会風俗を描いた作品。
娼家の営業が国家と社会、そして恵まれない女たちにとって必要な仕事と信じ、RAAへの協力、焼け跡からの再建と「赤線」としての繁栄に尽力しながら、売春防止法の成立によって、国家に裏切られたショックで死ぬ楼主(倉本大典)に加東大介。
廓に育ち「いまどき珍しい花魁気質」の女給としてNo1の評価を得ながら、廓の外の世界に出る不安から、「赤線」の灯が消える日に命を絶つ女(光子)に香山美子。
従業婦組合の委員長として活躍するドライな戦後派女給(はるみ)にホキ・徳田、父の跡を継いでトルコ風呂への転業をはかる二代目(倉本希典)に長門裕之、卒業論文制作のために「赤線」に入り込む女子大生(楠千恵子)に加賀まり子という配役。
「赤線」廃止6年後の作品で、時代考証・復元に大きな問題点はなく、「赤線」を中心とする戦後の性風俗史の流れを追うのに最適の作品。

(3)白鳥信一監督「赤線最後の日 昭和33年3月31日」(1974年、日活)
明日から売春防止法が施行される1958年3月31日、「赤線」最後の夜の新宿2丁目を舞台に、最後まで「赤線」にとどまった3人の女の姿を描いた作品。
通い詰める学生をやさしく抱きしめる女(ひとみ)に宮下順子、次から次に客を上げて無感動に身体を開く女(ヨーコ)に芹明香、結婚を前にした童貞男に女を教える女(康子)に中島葵。そして、食事を抜いてまでひとみに通い詰める学生に風間杜夫という配役。
「赤線」廃止16年後の作品、しかも「ロマンポルノ」という低予算映画にもかかわらず、洋風のホールをもつ「赤線」の特徴的なカフェー建築をかなり丁寧に再現している。また、性行為の後、女たちが使用する「洗滌器」が映されている。


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コメント 3

KumatanPentan

はじめまして。私は、古い街並みの写真を見るのが好きで、赤線のあった街について取り上げたサイトや本を見るうちに、三橋さんの『新宿「性なる街」の歴史地理』のことを知り、拝読しました。この本のコラムでも紹介されていた三つの映画のうち、上二つを見ることができました(『赤線地帯』は3月に有楽町で行われた「若尾文子映画祭」で、『にっぽんぱらだいす』は動画配信で)。
どちらも、あっけらかんとした感じで赤線を描いていたことが印象的でした。

『にっぽんぱらだいす』の方は、赤線最後の具体的日付を示してはいなかったのですが、何となく3月っぽく描いているように思いました。2月末で東京の赤線がなくなったという記憶が消えるのはもっと早かったのかもしれません。
by KumatanPentan (2020-07-23 18:39) 

三橋順子

KumatanPentanさん、いらっしゃいま~せ。

拙著、ご購読ありがとうございます。

ご指摘ありがとうございます。
『にっぽんぱらだいす』見直してみます。
by 三橋順子 (2020-07-25 19:35) 

KumatanPentan

返信していただき、ありがとうございました。
参考文献として挙げられていた『東京都の婦人保護』や『婦人新風』も所蔵している図書館に行くついでにちょこちょこ読んでいます。前者は、「売春防止法全面施行15周年記念」という性質上でしょうが、先生のご著書ではあまり触れていない側面から、赤線や青線で生きた女性たちの姿について学ぶことができました。後者は、抗生物質の広告が目立っていたり、『赤線地帯』についてあれこれツッコミを入れている記事が載っていたりするところが面白かったです。

 『にっぽんぱらだいす』は、「赤線街路~昭和33年の初雪」というアダルトPCゲームの登場人物のモデルが出てくるという話も聞いていたので、そちらの方からも興味を持っていました。このゲーム、あまり売れなかったようですが、売春防止法制定に向けた動きによって女給たちにスティグマが付与されてしまったことなどを描いていて、おもしろかったです。
by KumatanPentan (2020-07-26 14:14) 

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