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戦後・男性同性愛頒布誌の整理 [性社会史研究(性風俗雑誌)]

6月22日(月)

戦後の男性同性愛は、私の研究領域ではないし、まして私家版・少部数の頒布誌となると、知識も乏しいのだが、必要があってちょっと整理。

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戦後・男性同性愛 頒布誌の整理

1 『ADONIS(アドニス)』(1952~62年)
「日本最初のゲイ親睦機関」である「アドニス会」の機関誌。
創刊号(1952年9月10日)~63号で廃刊(1962年)。ガリ版刷、A5版、40~64頁。
創会当時の発起人メンバーは、岩倉具栄、原比露志、伏見冲敬、上月竜之介ら。
創立に告知は高橋鐵主宰の『人間探究』(第一出版社)でなされた。
初代編集長は『人間探究』の編集者だった上月竜之介。
二代目編集長(15号以降)は田中貞夫(推理・幻想小説家中井英夫の同棲相手)。
1962年に警察の手入れが入り、廃刊。
他に別冊小説『アポロンの末裔』(1954年、著者は菱川伸=塚本邦雄)、「会員紹介総覧」(1960年)がある。
【参照】伏見憲明「アドニス探究」(『彷書月刊』2006年3月号)
ADONIS(2).jpg
ADONIS7号.jpgADONIS63号.jpg

1-2「MEMOIRE(メモワール)」(1953~61年)
「アドニス会」会員による手記集。
1号(1953年)~8号(1961年)。ガリ版刷、B6版、60~98頁。
MEMOIER(2).jpg

2 『羅信』(1950年代後半?)
「花卉(かき)研究会(FKK)」の機関誌。
「花卉研究会」は、『風俗科学』編集長西條道夫が発起した男性同性愛に興味をもつ人々の友好団体「風俗科学研究会(FKK)=特異風俗研究会」のカモフラージュ名称と思われる。
編集は、『風俗科学』などに男性同性愛小説などを執筆していた扇屋亜夫。
17号と19号が確認できるが、刊記がなく、詳細な年代は不明。1950年代後半の発行か?
ガリ版刷、A5版、64頁。
誌名の『羅信』は「裸身(らしん)」のことだろうか?
(みそかごとさんから「『羅信』=魔羅通信の略ではないか」とのご教示をいただいた。その方が可能性が高いように思う)
羅信 (2).jpg

3 『MAN』(1954~57年)
1950年代に風俗雑誌に男性同性愛関係の記事を数多く執筆した鹿火屋一彦(かびや かずひこ)邸や近隣の中野哲学堂で開催されていた研究会「龍陽クラブ(青芦俳句会)」の機関誌。
鹿火屋一彦の編集。ガリ版刷、A5版、20~50頁。
1954~1957年に1~13号が刊行されている。
MAN(2).jpg

4 『同性』→『同好』(1960~66年)
大阪拠点の会員制の男性同性愛誌。
会員数千人を誇り、東の『アドニス』、西の『同好』と並び称された。
1960年創刊、1~3号は『同性』、4号(1960年)から「同好」と改称。
「創立7周年を迎えて」(毛利晴一)を載せる79・80合併号(1966)まで確認できる。
ガリ版刷り、A5版、48~100頁。
編集・発行は、大阪の男性同性愛世界の顔役的存在だった毛利晴一。
同性→同好(2).jpg
同好14.jpg
IMG_5795(2).jpg
↑ 『同好』71・72号(1966年)鹿野由行氏所蔵

5 『清心』(1968年?~73年)
大阪拠点の「同好趣味の会」の機関誌。
毛利晴一の編集・発行の『同好』の後継誌。A5版、70~120頁。
19号に「創立13年特集号」とあり、1973年まで刊行されたと思われる。
清心(2).jpg
IMG_5793(2).jpg
↑ 『清心』7号(11周年特集号、1971年)鹿野由行氏所蔵

6 『楽園』(1962年~?)
切手収集趣味の「ゆうびん社」横浜局の刊行の会員制の男性同性愛誌。
1962年秋に「サンプル版」が出ている。ガリ版刷り、A5版、52頁。

7 『薔薇』(1964~67年)
会員制の男性同性愛者集団「薔薇の会」の機関誌。
編集・発行は『風俗奇譚』(文献資料刊行会)編集長の高倉一の編集・発行。
ガリ版刷り、A5版、58頁。
執筆陣に間宮浩、かびやかずひこ、山口淳ら、イラストは宗方快也、船山三四ら。
1964年7月創刊号、43号(1967年)で終刊。
薔薇(2).jpg

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このまとめのデータと画像は、『股旅堂古書目録』6号(2012年12月)「(巻頭特集)日本ゲイ文化の黎明期」にほとんど依っている。
一古書店の目録が、これほど高い資料性・学術性を持つことは、すばらしいことである。
古典籍・古文書の世界では、かって反町茂雄氏の『弘文荘待買目録』(1933~84年)が高い資料性で知られていたが、性欲研究の世界における『股旅堂古書目録』のポジションは、それに近づきつつあるように思う。

2016年12月4日 加筆訂正

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スクルー

姐さん、コンバンワ。

手作り感がいいですね。同性愛メデイィアは、ネット時代の今よりこの時代の方が、内容の文化的レベルが高かったように思います。
今だと、リブ・アンチリブの罵り合い~身辺雑記の感想文~ハッテンバ情報にゲイ能人のゴシップというのが大半でしょう。
姐さんのブログはその意味で貴重ですね!!
アドニスの田中貞夫氏は「月蝕領崩壊」のBでしょう。
あの作品は闘病文学の傑作だと思いますね。
濃密な時間感覚というか、そういう日常の一コマ一コマが、独特のタッチで淡々と記述されているとこが素晴らしい。
(追伸)
いよいよなでしこJも決勝T。オランダ相手だと苦しい試合になるでしょうね。まぁ、これからは勝ち試合でも、ギリギリの相手ばかり。延長戦になったら、勝ちでも次は中3日でOZでしょ。奇跡はそうそうはないでしょうしね。
JFAは今大会を機に、世代交代と監督の交替を断行して欲しいです。
内部で色々の確執があるみたいで、協会ではC案件とか呼んで色々困ってるみたいですよ。
旦那は文科省のキャリアなんで、その辺り色々情報が入って来るんです(苦笑)。
「ダイクが壟断していたら、未来はない」とか夕食の時にいってましたもん。
佐々木監督もあの人脈や結束には踏み込めない。
最近の祭配にも冴えがないし、ここらが限界ですかね・・・
長々と失礼しました。

by スクルー (2015-06-22 22:30) 

三橋順子

スクルーさん、いらっしゃいま~せ。
1950~70年代前半まで、同人誌のほとんどはガリ版刷りでした。
鉄筆で原紙を切って謄写版で印刷した経験があるのは、私よりちょっと下の世代(50代後半)まででしょう。
ゲイ同人誌の文化レベルが高かったのは、おっしゃる通りです。
ゲイであることを隠している作家・評論家(それらの卵)が寄稿していましたから。

追伸の件ですが、前回の優勝は神様の贈り物なので、二度続けては無理でしょう。今日、オランダに勝ったので、次のオーストラリアにもなんとか勝ってベスト4までは行ってほしいです。

by 三橋順子 (2015-06-24 19:59) 

みそかごと

Junko さま

 初めて立ち寄らせていただきます。
 三島由紀夫研究にいそしんでいる者です。

 股旅堂目録、重宝しております。
 このたびお取り上げの資料はすべてかの伊○○学さんの手ばなされた物ですね。
 なお、「羅信」については、婆心ながら、やはり魔羅通信の略でございましょう。

 これからもどうかご健筆を願っております。。。
by みそかごと (2015-12-30 23:56) 

三橋順子

みそかごとさん、いらっしゃいま~せ。

コメント、ご教示、ありがとうございました。

なるほど、「羅信」=魔羅通信の略ですか・・・。
納得です(本文に注記しておきます)。
by 三橋順子 (2015-12-31 01:48) 

みそかごと

Junko さま

 明けまして、おめでとうござます。

 註記でとりあげていただいて、誠にありがとうございます。

 出放題なことも書けませんので、ひとまず確認のため、たまたま手元にあった扇屋亜夫『白い血の猟人』(妙義出版、1957)を開いてみましたが、これといった手がかりは見つかりませんでした。
(またまた婆心で恐れ入りますが、「扇谷」ではなく「扇屋」です。もっとも謎かけペンネームではありましょうが。
 こころみに解けば、「オルギア Orgia」の「アブ abnormal」なのでは。)

 なお、『白い血の……』の内容は、創作か事実か判然としませんが女装記事が散見されます。

 すでにご存知でしたら、なにとぞ無用の婆心にご容赦願います。



by みそかごと (2016-01-01 21:15) 

三橋順子

みそかごとさん、いらっしゃいま~せ。

誤植のご指摘ありがとうございました。
直しておきました。

「扇屋」=オルギア Orgia=ディオニューソス神を祀る宗教儀式
「亜夫(あふ)」=アブ abnormal
ですか・・・なるほど。
なぜ「亜夫(あお)」ではなく「あふ」なのか、ずっと疑問に思っていましたが、そう解釈できれば解決できますね。

『白い血の猟人』、手に入れてみようと思います。
ご教示。ありがとうございました。
by 三橋順子 (2016-01-04 18:12) 

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