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2月25日(日)太田記念美術館「葛飾応為『吉原格子先之図』―光と影の美―」展 [お勉強(博物館・美術館)]

2月25日(日)  晴れ  東京  14.2度  湿度31%(15時)
10時過ぎ、起床。
朝食は、ダークチェリーパイとコーヒー。
シャワーを浴びて、髪にあんこを入れて頭頂部で結んでシュシュを巻く。、
化粧と身支度。
紺地に白い雲のような模様のロング・チュニック(長袖)、黒のブーツカットパンツ、黒網の膝下ストッキング、黒のショートブーツ、黒のトートバッグ、黒のカシミアのショール。
12時、家を出る。
東急東横線から東京メトロ副都心線に乗り入れて明治神宮前駅で下車。
表参道の「太田記念美術館」へ。
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「葛飾応為『吉原格子先之図』―光と影の美―」展を見る。
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葛飾北斎(1760~1849)の三女、葛飾応為(お栄)の初めての作品展。
と言っても、現在知られている作品数がごく少ない絵師なので、応為の作品は代表作「吉原格子先之図」と、挿絵を描いた『絵入日用女重宝句』(高井蘭山作、弘化4=1847年)という絵本だけなのだが。
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しかし、それだけでも十分に見る価値はあった。
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第一印象は「小さい」。横40cm、縦26cmほど。
なぜ、もっと大きな絵をイメージしてしまうかというと、描写がとても細密だから。
これほど細部まで書きこんでいるのだから、それなりに大きな絵なのだろうと思ってしまう。
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張見世の壁にはまるで能舞台のような立派な松の木が描かれている。
右奥の遊女の簪の影が壁に映るのもちゃんと描写している。
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左の遊女の仕掛(打掛)の柄は大きな梅か?、右側の顔が半分見えている遊女の柄は胡蝶。
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唯一、顔が隠れずに描かれている遊女。3枚櫛で簪は12本挿し。
妓楼の名は「い津ミ屋(和泉屋)」。「千客萬来」の文字は小さいけども達筆だ。

次に、画像で見る以上に陰影の対比がくっきりしている。
当時の灯りは、今と比べればずっと照度が低いわけで、写実ならもっと陰影が朧になるはず。
そうでないということは、意識して陰影を強調しているということで、西欧絵画の明暗法の影響が見てとれる。
その一方で、構図的には、とても写実的。
一般的には、張見世の中の遊女たちに視線が行くが、私が注目したいのは、右側の玄関の土間部分に描かれている遊女とそのお供の後姿。
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「仲之町張り」に出ていた高級遊女の一行が妓楼に戻ってきた姿と思われる。
奥から禿(かむろ)、花魁、提灯持ちの男、振袖新造か。
花魁の簪や男の着物の柄もしっかり描いている。
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この花魁、12本差ではなく16本差だ(簪の数が多い方が格が上)。
おや、禿が一人足りないが・・・。
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対になる禿は、なぜか格子の前にいた。
花魁から言伝でも言い付かったのだろうか。
扇形の花簪が玄関から上がろうとしている禿と同じ。
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全体として、夕闇の訪れとともに活気を増す遊廓の雰囲気が見事に描写されている。
おそらく現地で実景をきちんと取材して描いたものなのだろう。
遊廓は一般の女性は入りにくい場所だが、そこは北斎先生の娘、いくらでもコネはあったはず。
ちなみに、花魁の供の男の提灯に「應」、格子の前の禿の提灯に「為」、そして格子の前で遊女と対面している男の提灯に「栄」の文字が入り「落款」になっている。
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この作品に続いて、北斎一門の作品が並んでいたが、そのあまりの力量差に唖然としてしまった。
応為の力量は、北斎の弟子たちと比べて断トツ、まさに抜きんでている。
同時代(北斎の次の世代)の絵師(応為の生年は不明だが、おそらく1790年代)で、技量的に比肩できるのは歌川広重(1797~1858)と歌川国貞(三世歌川豊国、1787~1865)くらいだろう。
父北斎をして「余の美人画は、お栄に及ばざるなり。お栄は巧妙に描きて、よく画法にかなへり」(飯島虚心 『葛飾北斎伝』)と言わしめたように、肉筆美人画では、当代一の技量だったかもしれない。
しかも、応為は北斎の門人として基礎から絵を学んだ人ではない。
父親の仕事を手伝っているうちに見様見真似でこの域に達してしまった。
お正月に江戸東京博物館の「大浮世絵展」で応為のもうひとつの傑作「夜桜図」を見たときに思ったが、彼女の絵は天才だと思う。
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葛飾応為「夜桜図」(19世紀半ば)
展覧会では「天才北斎の娘」というキャッチコピーが使われていたが、それは間違いで「天才北斎の娘も天才」が正しいと思う。
応為が女だということだけで、その技量と作品が評価されないのはあまりに理不尽だ。
こうした企画展がきっかけになって、彼女の作品が発掘され、その画業が再評価されることを強く望む。

13時半、学芸大学駅へ。
昼食は、西口駅前の「てんや」で桜海老のかき揚げ&ふきのとう天丼(桜海老のかき揚げ、蕗の薹、竹の子、鰆=さわら、海老)。
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ちょっと高かった(790円)が、季節感にひかれてしまった。
(続く)

【参考】葛飾応為「三曲合奏図」(ボストン美術館蔵)
葛飾応為「三曲合奏図」.jpg

【追加】赤子をおぶった女(コメント参照)
葛飾応為「吉原夜景図」2 (2).jpg
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月村 朝子

とても嬉しいルポです!
中学生のときに杉浦日向子の「百日紅」を読んでから、応為の絵の実物が見たくてたまりませんでした。
「百日紅」では、北斎に手厳しいことを言われながらも 肝のすわった絵師として父親を支えるキャラクターに描かれていました。

実物を見ることはまだ先になりそうですが、こうして三橋さんのルポを読めて本当に嬉しいです。
by 月村 朝子 (2014-02-27 15:04) 

三橋順子

月村朝子さん、いらっしゃいま~せ。
私も「お栄」の存在を知ったのは杉浦日向子さんの「百日紅」でした。
彼女が存命だったら、ようやく応為の存在が注目された状況にどんなコメントをしたか・・・、残念です。
月村さんが、すばやく反応してくださったので、うれしくてちょっと細かい作業をして拡大画像を追加しました。
あらためてお楽しみください。
by 三橋順子 (2014-02-27 18:45) 

丁子屋

おはようございます。

 やっと 「あごぉ」「化十」に光が当たり始めたのをうれしくおもいます。
 何年前だったか フジTVで「葛飾応為」の番組があって、進行役が荒俣宏さんだった。 そこで紹介された絵は、「吉原格子先之図」「夜桜図」 題名忘れましたが 町娘 芸者 花魁の3人が描かれた絵。
 このうち 「夜桜図」は 江戸東京博物館で見た。
 「吉原格子先之図」は太田美術館で あ みのがし。
 「3人娘」は 展示されることあるのだろうか?

 追記
 あの時代の絵師の方々というと、「百日紅」がベースになってしまうのが困ったところで 特に 国芳さんの常識的な美少年イメージが染み付いてます。 大成した後の 彼の奇抜な行動 言動がつながりません。
by 丁子屋 (2014-02-28 08:36) 

三橋順子

丁子屋さん、いらっしゃいま~せ。
「3人娘」は、ボストン美術館所蔵の「三曲合奏図」です。
これも楽器を扱う手の描写がじつに適確で、応為の写実力をよく示しています。
本文の方に画像を載せておきました。
あの時代の絵師のこととなると、「百日紅」ベースになるのは、初めて江戸の絵師の世界に注目した先駆的な作品ですから仕方がないです。
それにしても日向子さん・・・(涙)。
by 三橋順子 (2014-03-01 19:52) 

彩之介

はじめまして、彩之介と申します。『吉原格子先之図』のことを調べていて、こちらに辿り着きお邪魔いたしました。

この絵の書き込みの緻密さには驚くばかりでして、見ていて飽きることがありません。
その中で、一つ疑問に思う部分があります。
それは、格子の前で提灯を持つ禿の右側に描かれた人物でして、幼子をおんぶする女性のように見えます。
この場でそんなはずはないと思うのですが、これはどんな人物を描写したものなのでしょうか?
by 彩之介 (2015-02-17 23:38) 

三橋順子

彩之介さん、いらっしゃいま~せ。
画像拡大処理してみましたが(本文末尾参照)、たしかに赤子をおぶった女性のように見えます。
遊女は子を儲けない建前ですが、廓内には遊女以外にも、妓楼の生活を支えるためのさまざまな人たちが暮らしていたので、そうした家の子供と考えるのが妥当だと思います。
ただ、そうした裏方の人たちは、通常、格子の前のような表側には姿を現さないはずで、その点、いささか不思議な気もします。
by 三橋順子 (2015-02-18 02:12) 

彩之介

早速、解説していただきありがとうございます。
なるほど、そういうことでしたか。それにしても、あたかも賑やかな縁日の夜店を歩きながら、背中の子供をあやしてるかのようですね。
色とりどりの遊女の姿は、子供の目にも華やかに映ったのではないでしょうか。

ちなみに友人は、『もしかすると、この女の描写は創作ではなかろうか?応為はこういった裏方のこともよく知っていて、通常なら表に出てはこない人達をどうしても描きたかった。そんな風に考えてみたくなった』と申しております。
色々と思いを巡らせるのが楽しい作品ですね。
by 彩之介 (2015-02-18 22:06) 

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