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『朝日新聞』教育欄「いま子どもたちは 男装/女装」第11回 [現代の性(いま子どもたちは 男装/女装)]

8月9日(金)
『朝日新聞』教育欄「いま子どもたちは 男装/女装」の第11回。
「紙面」の見出し「『男の娘』が楽」は、フェミニストの先生方に叱られそうだが、「男の娘の方が楽」と思ってしまうほど、現代社会、いや近代社会以降、「男らしくない男の子」を取りまく社会状況、とりわけ学校における状況がきついということ。
そうした学校教育現場の厳しい状況について、私は11年前に「トランスジェンダーと学校教育」 (『アソシエ』8号 2002年、御茶の水書房)で指摘したのだが、当時は性同一性障害の大流行期で、トランスジェンダー視点で書いた論文はまったく顧みてもらえなかった。

「デジタル版」は、読んでいていろいろ感慨深かった。
茶漬けさんが言っている「履歴書に「趣味・女装」って書ける世の中になってほしい」というのは、私がずっと言ってきたこと。
思いは次の世代に受け継がれているのだなと、うれしかった。
一方、魅夜ちゃんが言っている「女装は年を取ってもかわいくて、格好良くて、ステキな人というモデルになる先輩がいない」という指摘には、上の世代の一人として「申し訳ない。これが精一杯でした。力が足りませんでした」と頭を下げるしかない。
たしかに、魅力的な女装・男装のロールモデルは必要だ。
それを作り上げるのが、茶漬けさんや魅夜さんたちの世代の「仕事」だと思う。

この連載も、残りわずか。
9日(土)朝刊に掲載の第12回が最終回となります。
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(いま子どもたちは)男装/女装:11 
男らしくなくていい「男の娘」が楽

「男の娘」の写真集の出版記念イベントでは、女装の実演もあった。男子生徒(17)もこの後、同じようにメークをしてもらった=東京都新宿区

 No.569
2日夜、東京・新宿で「男の娘(こ)」の写真集の出版記念イベントがあり、モデルになった「男の娘」たちも出席した。

定員50人の会場は満員。20~40代の男女に交じり、都立高校2年生の男子生徒(17)の姿もあった。「見た目は女の子だけど中身は男性っていう『男の娘』に、会ってみたかった」

彼は、「男の娘」に自分を重ねていた。
自分が「男らしくないこと」をずっと悩んでいた。幼いころ、転んで泣くと、母親が言う。「男の子なんだから、泣かないの」。なぜ男はダメで、女ならいいのか――。

成長してくると、同級生の男子たちが、自分のことを「僕」ではなく、「俺」と言い始めた。しぐさも乱暴になってくる。自分はそうしたくないのに、「男の子はみんな、こう振る舞うべきだ」という圧力を感じた。そして、元気でやんちゃな「男らしい」男子が女子にモテる。「男らしさ」がない自分は、きっと女子には好かれないのだろうと、落ち込んだ。

好きになるのは女子だけど、男らしい言動は苦手。自分はいったい何者なのかと本気で悩み、1年ほど前からインターネットで調べ始めた。いろんな性的マイノリティーや「男の娘」の存在を知り、今はかなり楽になった。

「男の娘」のような女装にも、興味がある。女子のかわいい世界観を時々体験してみたい。できれば「男の娘」としてモデルをやりたい。有名になって、こんな人間もいるのだと、世間に訴えたい。
出版記念イベントで、ステージに見入っていると、主催者が、女装メークをしてもらいたい客を募り始めた。「この子にしなよ!」。会場のどこかから、自分を推す声が上がった。

彼は、あっという間に「人生初」の化粧を施され、顔だけ女性に。会場から「かわいい!」という声が上がった。「早く男の娘モデルになれるように、頑張ってメークを覚えなきゃ」。そう心に決めた。
(原田朱美)
 〈+d〉デジタル版に「女装はこれから、どこに向かう?」
http://digital.asahi.com/articles/TKY201308080531.html?ref=comkiji_txt_end_s_kjid_TKY201308080531
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(以下、デジタル版のみ掲載)
女装はこれから、どこに向かう?

出版記念イベントに出席した(左から)立花奈央子さん、茶漬けさん、井上魅夜さん=2日、東京都新宿区

「男の娘」の写真集出版記念イベント。「男の娘」たちが女装のきっかけや今後の夢を語った=2日、東京都新宿区
 【原田朱美】女装はこれから、どこに向かうのか――。東京都新宿区で8月2日、「男の娘(こ)」の写真集「ゆりだんし」(マイウェイ出版)の出版記念イベントがあった。女装男子をめぐるトークの一部を紹介する。

出演者は、写真集で撮影を担当した立花奈央子さん▽「男の娘」の女装メードカフェ「NEWTYPE」を経営する茶漬けさん▽「男の娘☆ちゃんねる」などを手がける井上魅夜さんら。トークは、「男の娘」ブームをめぐる議論から始まった。

立花 私、自分の仕事ではもう「男の娘」って言葉を使わないって宣言しちゃった。「男の娘」の意味には大きく二通りある。ひとつは女装する男の人。自分のために女装する人たち。もうひとつは2次元のキャラ。2次元の「男の娘」って、とっても若い中高生くらいの女子と見間違うほどの美少年に描かれている。男性の性的な欲求を満たすために作られている偶像です。自分のためと性欲のため。ふたつが指すベクトルが全然違う。
2次元が好きな人たちから3次元の女装した「男の娘」を見ると、男っぽさが残っていたりするので、全くの別物に見える。彼らはものすごい拒否反応を示すんですよ。「死ね」「認めない」とか悪口の嵐。私は女装の理解をすすめたいと思って「男の娘」と銘打って出版物を出したけど、2次元好きの人にとっては自分の好きなものを汚される脅威でしかなかった。すごく攻撃されました。

茶漬け 3次元の「男の娘」って、最初はすごくきれいな女装の人を指す言葉として登場した。でもそれがブームになって広まって、必ずしもキレイじゃない人が「僕も男の娘です」と言うようになって、いろんな人がまじったぐちゃぐちゃな使われ方になってきた。「男の娘」って客観的なものだと思う。

井上 「男の娘」って、2次元の理想を一生懸命3次元に落としこむ人を指す言葉でいいんじゃないかな。理想の星を追いかけている姿が「男の娘」だと思う。かわいいから認めるとか認めないとかではなく、そういうものでいい。ムーブメントってやっぱりそういうもの。

茶漬け 履歴書に「趣味・女装」って書ける世の中になってほしい。昔はオタクって人に言えなかったでしょ? 性犯罪者予備軍だと思われていた。だけど今は女の子がすすんで「自分はオタクだ」と言える世の中になった。ビジュアル系バンドも、昔は「悪魔でも信仰してんじゃないか」とか「ドラッグやってんの」「ウツなの」って言われてた。だから、女装もできると思う。
最初に必要なのはアイドルグループ。あらゆるサブカルチャーにはカリスマがいる。誤解なく発信できる人が出て、理解がすすんできた歴史がある。たとえばビジュアル系バンドなら「X JAPAN」。オタクは「電車男」。だから、女装もアイドルとプロデューサーと、性的な要素を取り除いたファッション女装の雑誌という三つがあれば売れると思う。

井上 自分は、街をつくりたい。この範囲は女装の人が当たり前にいるという街。普通に安全に暮らせて、共同体にも溶け込んで、いっそ祭りも参加するような。僕は上野から秋葉原までをそうしたいと思ってる。
あと、女装は年を取ってもかわいくて、格好良くて、ステキな人というモデルになる先輩がいない。日本全体にも言えるかもしれないけど、若ければ若いほどいいとか、チヤホヤするのは社会として幼い。僕も年を取るけど、そういうモデルを示せるようにしていきたい。

茶漬け 女装とエロを切り離したくて仕方ない。女装と言うと「エロだろ」「ゲイだろ」と言われる時代が続いてきた。性を切り離して、男が好きだろうが女が好きだろうが、女装が好きならそれでいいじゃんっていう世の中をつくりたい。

立花 女装するってことについて、それだけで非難されない世の中になってほしい。今回写真集『ゆりだんし』をつくったのも、女装って気持ち悪くなんかない、普通にかわいいじゃんって思ってくれたらいいなと。夢は、熟年女装写真集をつくること。

井上 いろんな理想の女装があると思うけど、ムーブメントは1人の力でつくるものではない。みんなで盛り上げていってもらえたら。
http://digital.asahi.com/articles/TKY201308080227.html?ref=comkiji_txt_end_s_kjid_TKY201308080227
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コメント 3

Gen

うーん、興味深い記事を有難うございます。
「女装だとゲイ」と思われるって、困っちゃいますよね。
自分がこうなってから色んなものの可能性が格段に広がってしまい、別の観点から見えるようになってしまいました・・・・。
これ自体は多分いいことです。

知恵袋に女性の身体になって「嫁もい」て、青少年の性器の悩みの数々に真面目に答えてあげている、というとても不思議な回答者がいます。名前は女性ですが、文の感じも男性が書いてる感じです。
でもおおらかな回答を見ていると気持ちが軽くなります。

女性の体になったからって、男性が好きとは限りませんよね。
女性の体に合う洋服が好きで、お化粧好きで、そして女の子が大好きでも全然かまわないと思うのですが。
私は長年この体に入ってるし、今まで着てきた洋服がすごく好きなので、そしてそれが似合うので、服を着てる間は許せます。
ほんとは男性の服の方が好きだけど、元服飾関係の仕事をしていたものとして、似合わない服を自分が着る事を楽しめない・・・・。
きれいに見える服を着て普通の人に「化けて」たほうが日常生活は楽です。

「男の娘」たちがどう思うかは分からないけど、先生と同年代くらいの近所のオカマバーのママ(いやな言い方だったらすみません。他になんて言ったらいいか。ご自分でもそう言ってるし)さんがすごくかっこいいと私自身は思っています。穏やかな話しぶりでものすごいインテリで、谷間の見える豊かなバストから皆(女ばかりでしたが)目が離せない・・・・。別におしゃれとかじゃないけど、年取ったら女は中身も大事ですよ。

若い方がいい、というのもがっかりですよね。そこは同感です。
成熟足りないのかも。

今Standard of Careの和訳を必要があってやっていますが、gender noncorforming people, bioidentical hormone,などの訳語に困っています。Google Scholorでも英語しか出てこないし・・・・。言葉に対する理解が不十分なのでトータルにこの世界の用語が分かるような本があれば教えていただけませんか?先生の御本だとさらにいいのですが、できるだけ新しいもので何かあればお願いします。ブログとかでも構いません。


  

by Gen (2013-09-13 03:00) 

三橋順子

Genさん、いらっしゃいま~せ。
>普通の人に「化けて」たほうが日常生活は楽です
世の中、一見、普通の人に見えても、中身はそうじゃなくて、生活の便で「化けて」いる人もけっこう多いのです。
でも、それがわかったのは40半ばを過ぎてからでした。

>先生と同年代くらいの近所のオカマバーのママ
どなたかな?同年代だと知っているかも?

>若い方がいい、というのもがっかりですよね
はい、現在の日本は「未熟」が価値があり、「成熟」は厭われます。それだけ未熟な人間が社会の価値観を作っているのでしょう。

>今Standard of Careの和訳を必要があってやっています
訳語は難しいですね。私も苦労します。
gender noncorforming peopleは、ジェンダー秩序不服従者みたいな感じでしょうか。
Standard of Careには「用語集」があったと思いますが、日本語への置き換えには苦労しますね。
by 三橋順子 (2013-09-20 01:58) 

Gen

コメントありがとうございます♪

同類が多いと聞いてちょっと安心しました。
友人はホルモン始めて外見変わったら女性が「近寄りもしなくなった」とぼやいてました。
GIDなのは前から知ってたのに、今までは女だと思ってたってことなんだなって。
日常生活も男になるためには苦労が多い、と改めて思います。

私もお知り合いかも、と思いましたが、お名前は存じあげませんで。
京浜東北線の大森駅から徒歩3分以内に2件そうしたバーがありますが、「ミスターママ」でない方を経営されてます。
「左翼よけ」に一水会の鈴木さんとお写真を撮られる先生とは考えも近いと思われます。

SOCの和訳検討会という事をされていたと過去の記事で読みました。
素晴らしいプロジェクトが進行中でわくわくしました。
翻訳の世界では通常、その道の「権威」が使う言葉を用いるのがスタンダード、と教わったので検索かけてみたのですがうまくいかなくて。
「性同一性障害の医療と法」という今年出版された本を買って読みました。
そこで「定訳がないに等しい状態」と知りました・・・・・。
それならそれでやります。
ジェンダー秩序不服従はなるほどと思いました。
by Gen (2013-09-24 23:53) 

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